椿本力三郎さんの映画レビュー・感想・評価 - 3ページ目

ラストエンペラー(1987年製作の映画)

4.5

半年くらい前と記憶しているが、
新宿で「ラストエンペラー」が再上映された。
映画好きの仲間内でも話題になった。
「絶対に見ておいた方が良いよ。
恐らく10年くらい後になると中国の発言力が強くなる。ラス
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芳華-Youth-(2017年製作の映画)

3.9

文革前後の青春。
音と踊りが美しく、そして切ない。
あえて音と言ったのは音楽とマンダリンのこと。
ストーリーにはボリウッドに通じる分かりやすさがあるが、より繊細な心理描写と政治批判がある。
時代の極端
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泥の河(1981年製作の映画)

4.4

この作品が1981年撮影というのに驚かされるが、
あえて時間と精神的な距離をおいて描かれた「戦後」であるからこそ、
映画的演出が冴えわたっているのかもしれない。

藤田弓子と加賀まりこ

この2人の対
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ザ・ホエール(2022年製作の映画)

3.9

日本とアメリカでは評価の深さが
まったく違う作品ではないかと思う。

家族、信仰、カルト、セクシャルマイノリティー
過食という自傷行為、健康保険制度の違い、地域格差

それぞれが複雑に絡み合っており、
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誰も知らない(2004年製作の映画)

4.0

YOU演じる母親は
吐き気を覚えるレベルの「人間のクズ」なのだが、
不思議と腹が立たないのは、
この作品では彼らを「動物の群れ」として描いているからだろう。
そもそも人間ではないので「人間のクズ」でも
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トリとロキタ(2022年製作の映画)

3.7

カメラワークにせよ、役者の演技にせよ、
ドキュメンタリーかと思うほど
自然体で、だからこそ残酷だった。

確かに不法移民であり、
姉(ロキタ)と弟(トリ)の関係も偽りではあるが、
ビザがない、ビザが欲
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生きる LIVING(2022年製作の映画)

3.4

役所仕事における「預かっておこう、支障はない」というパワーワード。
死を意識させられた課長と部下達は、その呪文が一瞬だけ解けるのだが、しかし、組織の慣習はそう簡単には変わらない。

黒澤明といえば「影
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こちらあみ子(2022年製作の映画)

4.7

人間は、そして家族は、
こうも簡単に、一気に壊れるものか、
という現実を突きつけられた。

その危うさを何とかもがきながら
日々、必死になってバランスを取っていく。

視点を変えて何度か見るべき作品だ
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リメンバー・ミー(2017年製作の映画)

4.3

実際に「大切な人」を失った経験のある大人の方が響くのではないか。
また血縁の家族だけでなく、
歌舞伎、落語、日舞、武道における師弟関係における縁も思い出しました。
タイトルについて
キャッチーさ優先な
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しとやかな獣(1962年製作の映画)

4.0

「卍」と同じく「しとやかな獣」でも
若き日の船越英二は
「真面目なのに
若尾文子に人生をくちゃくちゃにされてしまうお堅い仕事の人」の役だった。
若尾文子の魅力について
ファムファタールという点で
完全
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シン・仮面ライダー(2023年製作の映画)

3.2

庵野秀明色に染められた仮面ライダー。
そういう意味では正しく「シン」シリーズのど真ん中にある作品であった。

シン・本郷猛は
「周囲の人間や環境、状況に流されてしまう主人公」である。
すなわち、この作
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ピアノ・レッスン(1993年製作の映画)

4.5

オールタイムベストの上位に入る名作。

作品としてのメッセージは単純であるものの、
非常に屈折し、不器用な3人の中で繰り広げられる愛情表現である為、
それぞれの具体的な事象やセリフは複雑かつ不可解に見
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卍 まんじ(1964年製作の映画)

4.5

若尾文子の「卍」ですが
「ミッドサマー」の世界観を
受け入れられる人なら大好物だと思います。
このむちゃくちゃな話も
若尾文子ならあり得るのではないかと
思わせる非日常的な美しさ。
増村保造監督と若尾
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ファースト・マン(2018年製作の映画)

3.7

デイミアン・チャゼル監督作品っぽいのは、
「ララランド」と同様に
男目線からも、女性目線からも観ることができること。
音楽が素晴らしく、特に無音の使い方が上手い。
もうすぐ終演のようですが機会があれば
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ジョン・F・ドノヴァンの死と生(2018年製作の映画)

3.8

序盤は詰め込み過ぎの感があったが、
最低でも3つの強烈なストーリーが
同時平行で進んでいると考えると
その「とっちらかり」は理解できるし
きちんと回収できている。
ジョンとルパートの物語というよりも
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15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)

3.9

タイトルが秀逸。
大きな偶然と小さな偶然、
長いスパンで考えるとすべて必然。
実話を映画として切り取ることで
よりメッセージが強く、鋭くなるという好例。

探偵物語(1983年製作の映画)

4.5

松田優作目的で角川映画の「探偵物語」を見始めたが、
もう冒頭から薬師丸ひろ子に釘付けになった。
演技がどうのこうの、ストーリーがどうとか、ホンマにどうでもええわ。
松田優作と薬師丸ひろ子がそこにいるだ
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バビロン(2021年製作の映画)

4.3

まず3時間は決して長くないです。
私は、中だるみも感じなかったし、
前半と後半のテンションの違いも気にならなかった。

1920年代の映画の産業としての変化(サイレントからトーキーへ)
そこで生じるカ
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ちひろさん(2023年製作の映画)

3.9

さすが今泉力哉監督作品でした。
押し付けがましくなく
ジワジワと心に染みてくるイメージ。
浮遊する存在としての「ちひろさん」を
見事に演じきった有村架純。
追いかけましょう。

グリーンブック(2018年製作の映画)

4.0

わずか60年前のアメリカでも
この空気感だったのか、と。
人種差別、移民問題、経済と教養の格差、
現代ではなく、普遍的なテーマ。
信念を貫く高貴さ。
バディムービーとして、ではなく、
セクシャルマイノ
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アクアマン(2018年製作の映画)

3.9

不覚にも感動してしまった。
「海の中のバーフバリ」との前評判、
さらに「海の中のブラックパンサー」でもあり、
シン・ゴジラ、スター・ウォーズ的な要素も。
要すればてんこ盛り。
赤毛のアンバー・ハード、
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ミッドサマー(2019年製作の映画)

3.6

強烈でもう笑うしかないですな、これ。
「怖い、不気味」という声も聞きましたが、
確かにグロテスクなシーンは多発するものの
全体を通して観たらそこまで気にはならない。(まあ、食欲は減退しましたけれどもね
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ゲーム(1997年製作の映画)

4.1

マイケル・ダグラスとショーン・ペンという剣豪によるバチバチの立合を見たような気がした。
「レインマン」のダスティン・ホフマンとトム・クルーズのように。
彼らのレベルになると共演じゃなくて決闘だろ、決闘
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別れる決心(2022年製作の映画)

3.9

「暴力と殺人」が愛情表現になってしまう不器用な男と女。
山と海のストーリーに大きく分かれるが、この女の本心に気づくのは後半の海のパート。
登場人物の心情を作っていくエピソードやメタファーはとても丁寧。
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his(2020年製作の映画)

4.3

「愛がなんだ」の今泉力哉監督作品。
さすが「ちょっと無理目、わけありの恋愛」を描くのが上手い。
ただこの作品の主題はそこにはない(従い、このポスターはミスリードさせる)
「マリッジ・ストーリー」と同様
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天才作家の妻 -40年目の真実-(2017年製作の映画)

3.7

はい、グレン・クローズを観に行くだけでも充分に満足できます。
「あるある」ですが
邦題と予告編の切り取り方が下手くそ過ぎて
この作品の価値を20%も表現できていない。
愛情しかないやろ、これ。
小津安
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モリコーネ 映画が恋した音楽家(2021年製作の映画)

4.5

天才は多産であり、多動である。
エンニオ・モリコーネのドキュメンタリー映画であるが、
およそ2時間45分の上演時間中のすべてが、
とてつもない熱量に満ち溢れており、
元気をもらえる作品である。

モリ
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ケイコ 目を澄ませて(2022年製作の映画)

4.3

ボクシング、ボクサーとしての日常は
あくまでもメタファであって、
「コミュニティによって支えられ、
そのコミュニティを支えている人が
その前提であるコミュニティの崩壊と変容によって
自分のアイデンティ
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チャンシルさんには福が多いね(2019年製作の映画)

3.7

「私をくいとめて」の大九明子監督が
絶賛するのもよくわかる。
「82年生まれ キム・ジヨン」よりも
ドラマ性が抑えられている分、
グッと胸に迫ってくるシーンとセリフが多い。
世代と価値観の違いは
日本
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ロマンスドール(2019年製作の映画)

3.5

蒼井優出演作品は
ほとんど観ていますが、
「百万円と苦虫女」は
蒼井優の魅力を最大限に引き出していると思うのね。
この作品はその「百万円~」のタナダユキ監督と蒼井優が組んだもの。
客単価2000円前後
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リンダ リンダ リンダ(2005年製作の映画)

4.3

ブルーハーツがお好きな方、ぜひ観てください。
僕はこの作品で初めてぺ・ドゥナを知りましたが、
彼女が一生懸命に日本語で歌うブルーハーツ、グッとくるのよね。
香椎由宇、前田亜季もキラキラしていたな。
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ワイルドライフ(2018年製作の映画)

3.7

写真の雄弁さを感じました。
映画と映画館が別物であると同じく
写真と写真館も別物であることも。
「人に優しく」ないと受け取れない作品。
父も母もダメ人間とか弱い人間かと言われるとそうでもないように思う
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リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)

3.9

権力の暴走から家族を守る「強いお母ちゃん」、
「スリービルボード」や「ベンイズバック」にも通じる。
実話の映画化において誇張と省略が効いており、
FBIと地元紙の敗戦は
えらくアッサリと描かれているが
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さらば愛しきアウトロー(2018年製作の映画)

3.8

ロバート・レッドフォードは、
心から映画が好きなんだなという想いが
伝わってくる。
バランスのとれた構成。
音楽も作品の世界観にマッチしている。
この作品における銀行強盗と脱獄は、
生命力の強さと知恵
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家へ帰ろう(2017年製作の映画)

3.8

重いテーマを見事に映画に仕上げたという印象。
しかも緩急自在に、ね。
落語に出て来てそうなジイサンだったな。
艶っぽくて、少年のままで。
普遍的に愛される存在ということだろう。

ぼんち(1960年製作の映画)

4.3

若尾文子映画祭にて市川雷蔵主演「ぼんち」
あやや、京マチ子に加えて越路吹雪、
さらに中村鴈治郎という豪華な布陣。
三隅研次作品とは別人のコミカルな雷蔵。