てんあお

はるねこのてんあおのレビュー・感想・評価

はるねこ(2016年製作の映画)
4.3
2017年の映画(館)始めに観た作品。愉しくも、ものを考えるのにいいスタートになった。

と言っても、その自分が感じる良さを上手く伝えづらい作品である。これまでに目にしたSNS上の褒めコメントをみても、音楽が耳に残る、特定のフレーズを言ってみてその楽し気な雰囲気だけ語る、みたいなものが多かった。それって映画の口コミとしてどうなんだろうか?

抽象度の高い映像が続く、というかほぼその意味のありかがよくわからないエチュードの連なりのような映画である。ただ、明らかにその中には、観る者の記憶をサルベージするような、明らかな意図が隠されているようにおもうのである。

自分の場合は、御巣鷹山の惨劇のあった直後に近くの群馬方面へ行った冷たくておぼろげな夏の日の記憶であったり、りりィという女優さんを認識しはじめたころの記憶だったりする。そういうものを偲んで、おくりだすような、追悼のような時間だった。

曖昧に探り合う。脚本も映像もかっちり決めて撮り進めて製作される最近の(商業)映画にたいして、この映画が示しているのは、そういう作品が出来ない(自主制作の)アプローチである。

映画を観た夜は、運よくあのスクリーンの中で、たのしげに自転車を走らせていた姿が印象的な川瀬陽太氏、主演の山本圭祐氏(同姓同名の俳優さんがもう一人いるので注意)と、今回はプロデューサーの青山真治氏が登壇し、そんな内容の話を聴くこともできた。そういう曖昧さは日本人の得意とするところだけれど、どうも2016年は、かっちりはっきりディレクションされるほうの「仕事」が注目されがちだった。一転して、そのような気分を大事にする映画人の姿に触れることは、年初めの体験としては得難いものであった、とおもう。

その夜は、たまたま監督の甫木元空氏が不在だったけれど、それもまた良かった。若くして監督として長編一作目にこのような、恐ろしい作品を生み出した存在に逢ってしまったが最後、何かを失ってしまいかねない。なんて、冗談めかしてみたりして。
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