てんあお

3月のライオン 前編のてんあおのレビュー・感想・評価

3月のライオン 前編(2017年製作の映画)
4.0
原作を全く知らない状態で鑑賞。『かしこい狗は、吠えずに笑う』の渡部亮平氏が脚本で参加されているという事と、先日の『聖の青春』との比較がしたくて、前後編を続きで観られるシネコンにて鑑賞。

さすがに前編は将棋のことをメインに物語が進む(後編を経たうえでの印象)。原作をいかに大事に維持するかの問題はあるけれど、流石に映画としての体感は長い。

将棋の局面の何をどれだけ見せるかという描写は、ちゃんとしていた。けれど、始めから前後編の設計図が出来ていたせいか、映画として考えるとややタイトさに欠ける。

新人王を獲った後からの流れは大事ではあるけれど、あそこに辿り着くまでの体感を考えると、もうひとつ分の何かをはしょるか、映像的に印象深いものをつるべ打つかの対策が欲しかった。

アプローチの違いがあるとすれば、前述の『聖の青春』が青春小説で純文学的だったのに対し、この『3月のライオン』は少年漫画に徹しているといえる。

決して漫画原作だからという訳でもなく、その事で優劣が生じている訳ではない。何をどう見せるかの方法論が異なっていて、結果的にあの当事者の心情をナレーションで語らしむというやり方に落ち着いたのだと思うが、『聖の青春』を観てしまった後では、あの世界の神々しさがかえって際立って思い出されるのである。

だからこそ感じるのは『3月のライオン』が、あの焦燥に満ちた世界に足を踏み入れようとする、桐山零という「非力だった」若者の物語なのだという一点になる。そして、その認識は後編で更に強まることとなるのだが…。その事が「少年漫画」として良いことなのかどうか。

とはいえ、演出云々というよりも、演者の頑張りでチャーミングになっている作品、でもあるとおもう。ひとり村山聖の影を背負い、バクマンの面影にも抵触する事を承知の上で、大いに気を吐いている染谷将太が、役者として助平根性があって頼もしい。

一方「棋士」に見えない伊藤英明と将棋に興味がなさそうな有村架純が、それはそれで味わいがあるのが面白い。あの妬みと愛憎に満ちたくだりが前述の渡部氏の仕事なら納得だとおもう。

何を言っているのだと思うかも知れないけれども、この映画の有村架純を観ながら思い出していたのは『ゴッドファーザー PART II』のコニー(タリア・シャイア)なのだ。そうか、彼女はこういう役を担うことも出来るのかと膝を打つような思いをした。

その他、川本家の面々について語りたいところだけれども、その辺りは後編の感想で。
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