てんあお

ザ・コンサルタントのてんあおのレビュー・感想・評価

ザ・コンサルタント(2016年製作の映画)
4.6
2017年も始まったばかりなのに、もうこんな映画に出遭ってしまうのか。大当たり、それくらいの一作である。(ある意味、例のあの映画が年末のスクリーンを占有したせいで、昨年の映画だったものが埋もれずにこうして観られている。配給側の善処のたまものといえる。)

脚本もよく「交通整理」がされていて、かつ戦闘シーンと、ほか主人公の仕事ぶり、その見せ方(感覚的なイメージと論理的な側面の提示)が美しい。マーシャルアーツに銃撃戦も唸るほどの出来だけど、一番の見どころはクリスチャン・ウルフが特別監査に没頭する場面の天才数学者のような働きぶりかもしれない。どちらかというと自分が感覚的な人間だからかもしれないが、ああいう論理的な理解が難しい部分の、イメージの見せ方とテンポ感がうまくハマったものを見せられると、ことのほか美しく感じるものだ。

正直言って、監督のギャヴィン・オコナーについては全くのノーマークだったけれど、俄然注目したくなった。脚本家出身というのがポイントかもしれない。先日の『ローグ・ワン』の窮地を救ったとされるトニー・ギルロイといい、そういう観点を持っている人間が、映画監督として望まれる人材なのかもしれない。

本作の何が素晴らしいかといえば、物語そのものが高機能自閉症に生まれついた或る男の肖像であり、昨今使い古されてしまった「アメコミヒーローもの」の文法を使わずにこのような硬派なアンチヒーローを、一本の映画で描き切ったことである。「彼ら」が抱える苦しみと、そのことに対する湿っぽさの表現については、人を選ぶ側面があるとはおもう。少なくとも『レインマン』の地点から、だいぶ遠いところまで来たのだな、という感慨もあるし、気概の点では(自閉症ではないが)『マイ・レフト・フット』の頃から何も変わってないのかもしれない。そのたゆまざる生きざまを素直に受け入れられるなら、この作品から返ってくるものもきっとあるはず。

ベン・アフレックというのが、実によい。少なくとも映画を観ているあいだは、彼がブルース・ウェインだったりマシュー「マット」マードックだったことは、全く忘れていた。文武両道だけど、ナイーブな側面の説得力もある。

盟友のマット・デイモンもそうだが、ちゃんと体を鍛えていて、重火器を使うときに体のブレがない、少なくともそう見せる説得力がある。そのこと一つ取っても彼という俳優は非常に好ましく思えるし、ケヴィン・スミスとつるんで映画をつくっていた彼らが、いまだにこういう映画の主役を張っていることが、ただただ嬉しい。

少し余談。本作を観て気に入ってくれた方には、是非劇場パンフレットの購入も勧めたい。クリスチャン・ウルフというキャラクターが、いかに綿密に構築されて演じられたかを窺い知ることのできる、ベン・アフレックの言葉も掲載されている。それに呼応するかのような、入江悠 監督のコラムも楽しい。

こういう映画をオンタイムで、劇場で観てしまうと、ついまた期待して映画に使い込みすぎていけないけれど。今年は洋画系にも、盛り上がってほしいものである。
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