てんあお

3月のライオン 後編のてんあおのレビュー・感想・評価

3月のライオン 後編(2017年製作の映画)
3.9
引き続き、前後編をまとめて観た、原作を全く知らない者としての感想を記しておく。

前編の、将棋に生かされた少年の物語が、どう続くのかと観てみると、思わぬところで「失速」する。そう、川本家と零との関わりの件が始まるのである。

このあたりは原作未読であると、なぜに次女のひなたの抱える問題から、川本家のホームドラマにシフトするのかがピンと来なくなる。将棋の局面の描写にも通じるけれど、必要なところを「必要なだけ」見せている。けれど、その必要さの加減が、原作を知らないと若干呆気にとられる。

そこで、その興味を繋いでいるのが、清原果耶という逸材だとおもう。実に可憐で伸びやかなひとであるし、期待の俳優だとおもう。人気者・人気アイドルが出ていないとかいう理由で、こういう若手や新人の出ている映画を見送ってしまうのは、実に勿体ない話。

余談だけれど、涙を見せまいと彼女が家を駆け出す場面があるが、そのときのしなやかな脚の運びが印象に残る(サンダル履きであそこまで綺麗に走れるのは中々)。ある場面で ひなた が失神するところも含め、彼女が持っている真っ直ぐさは、画面を超える瑞々しさを放っている。今しか観られない瞬間の輝き、と言っても過言ではない。

というか、川本家の面々が、なかなかに技ありなのである。長女のあかりを演じる、倉科カナには、そこはかとない色香が漂っていて、意味の違うところで惑わせている。泣きのツボであるべきところでも、違うツボに入ったがために、汚れた自分のような大人はニヤニヤしながら、鼻の下を伸ばし彼女をいやらしい目で見ている。という、穿った脇道があるのだけれど、本筋とは大きく外れるので止めておこう。そのような、いやらしさのスイッチが入らないのが「少年漫画」の良いところ。

それと3女の モモ 役の、篠崎誠監督『SHARING』でも印象的だった 新津ちせ(新海誠氏と三坂知絵子さんのお嬢さんで、『SHARING』では母子で登場している)がまた愛くるしさを振り撒いていて、そこに前田吟と板谷由夏というベテランを配するという堅い布陣が展開されるという… 。まぁ、もうひとりの年齢設定を除けば、完璧な配役といえる。言い方をかえれば、ペース配分を演者のチカラで持たせた格好だといえる。

その反面、将棋という側面がさらに失速する点は否めないけれど。それでも良かったと思うのは、対後藤正宗戦の「と金」からの逆転劇を、局面的な説明のないまま、実質 演技だけで乗り切ったところ。あの展開は冒頭の朝礼の内容とも掛かってくるし、将棋の泥臭い側面を逃げずに表現した場面だとおもう。

伝わりづらく、前後編で嵩を増さねばならぬという、映画ファンからは敬遠される展開のなかで、精一杯やっていたことは評価したい。
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