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オッペンハイマーのpandenのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

とある物理学者の方が「この映画は日本人こそ見るべき。アメリカという国の戦い方が分かる」という話をしていて、あまりに気になって視聴。
たまたま機内で見られそうだったんですが、英語音声・英語字幕しかなく途中で断念。
会議劇をフル英語で理解する語学力はなく……

ということで悔しい思いをしながらも、答え合わせのためにも帰国後早めに映画館へ行きました。感想もガンガン出てきてて悔しくて悔しくて…我慢できず!



とにかく前評判では「素晴らしい」と「わけわかめ」が両方見られましたが、
個人的にノーラン映画の中ではかなり分かりやすく、オッペンハイマー自身の歴史を通してアメリカから見た核戦争へ邁進した様がありありと描かれていました。
時系列の前後が激しく入れ替わるのはノーランらしさがありつつ、文脈は明確だったのでそこまで混乱せず。これで分からんなら前提知識か読解力がないだけでは…

ただ全体的にスピードが早めなのと登場人物が結構多い会議劇なので状況把握が忙しい!
3時間という長さが短く感じるほど中身が詰まってました。たぶん本当は5時間くらいの作品だったのでは…?詰め込みたいネタ多すぎでは?でも私は大歓喜でした。楽しい!!

ということで自分が良かったと思うところ。
まずノーランらしい音と映像による感情描写。これが会議劇の地味さを上手くカバーしていて、引き込まれました。
理論物理学の難しい話を、オッペンハイマーの端的な説明と、ゼログラビティの時のような音と宇宙的な映像イメージで表現してくれてわかりやすい。物理系の知識あった方がここはより楽しいかも(粒子と波どちらも持つのは矛盾する、でもこれだとさまざまなことの説明がつく!とか)
オッペンハイマーが優秀であることも、本人の語学の才能から始まり、その発言や学説に対する他の学者のリアクションや、学生が少しずつ集まって、支持を得ていく様子からよく魅せている。
この辺はインターステラーの頃から上手かった気がしますが、会話劇なのに全然飽きませんでした。

また最初にオッペンハイマーの苦悩と裁判のような場面から始めることで、彼自身のしたことの清算が今回の主舞台であることを示し、
ストローズとの密接な関係、アインシュタインとの不思議な交錯、そして内容不明な会話を印象的に残して気にさせて、最後に回収する上手さ。(確かに1番大事だっのはこの人たち)
登場人物も論点も多いのに、時系列より文脈を重視して少しずつ人と情報を追加してくれる描き方のおかげで、とても自然に頭に入ってきました。それでも「?」って公聴会の会話はあったけど、それは見直して理解します笑

そして伏線引いて回収するのがうまい!気づくと気持ちよくなるように作ってある。
最初に講義に来た学生には、ロスアラモスで再び会った時に同じ「頑張れ」の声がけで受け入れ、
ラビが最後サポートしてくれた時は「食え」と電車の時と同じような強めの差し入れがあり。
マンハッタン計画に関わる人が増えていく中で「スパイがいるかも?」と不安にさせながら、科学者の縁が広がりビー玉も増えて完成に近づく楽しみも見せてワクワクさせてくれる。そしてずっと気になっていたアインシュタインへの一言をしっかり最後に持ってくる。
実際に爆発させるトリニティ実験の時は実施直前に近づくにつれて時間の流れをゆっくりにして息を呑ませる。
ストローズの薄暗い恨みのいやらしさでムカつかせたところで味方を出し始めて流れを変えるところなども、
ずっと意味深に映していたヒル博士がやはりカギに。(ここはリアルさより劇画を感じましたが、正直期待していた展開でした笑)

本当はこんなにドラマティックではなかったろうと思いますが、
それでも引きこもれるのはマット・デイモンの不器用ながら誠実なグローブス少将と、賢いながら執念深くいやらしいストローズやロブの素晴らしいムカつく演技(笑)野良なせる技なんでしょう。

ただ字幕は一部不満でした!分かりやすいことが多かったけど、明らかに英語音声から削りすぎに感じた場面が複数…橋本さんが悪いわけではないんですが、前作と担当が変わったのもなんでだろうな〜と。
英語版を見てたからもあって、ちゃんと元のまま見たい気持ちが出ました。語学力がまだ足りないけど。



とにかくオッピー(という愛称になるんすね、かわいいな!)に気持ちが寄って、ストローズ(ダウニーJr)にムカついてしょうがない気持ちを、最後の最後で解消させた上でアインシュタインの可愛さまで感じて愛せる映画でした。

よくまぁこういう作品をアメリカが作れて、ちゃんと人気が出たなと思います。
何せ最後のセリフが、「我々(アメリカ)は、世界を破壊した」ですよ。アインシュタインとのオッピーだけでなく、確実にアメリカを含めたあの言葉。
核の被害者の写真をオッピー含むアメリカ人が見ているシーンで、写真を映さないのはダメだとか批判してる人いますが、何もわかってないと思います。あれはアメリカ人のリアクションを映してるから良いんです。
広島への投下成功を喜ぶアメリカ人たちに呑まれてオッピーも勢いよく演説した後で、幻覚で見えた核の炎はなんだったのか。焦げた死体を踏みつけてしまった幻覚は何か。なぜ水爆に反対した話がずっと繰り返し出てきたか。そして映画ラストのセリフ。

あれは、ナチスよりも先行して核を開発する責務を感じ、ドイツや日本が降伏せず両軍に死者が大量に出ることを防ぐためという大義で核投下まで正当化してきたアメリカの、やっと今になって出せた懺悔や自戒な訳でしょう。
世界の秩序を作る国という自負から、核戦争を始めたことを正当化していることの過ちをちゃんと認めている。2,3万人と言っていた被害者が、実際には22万人になってるわけで、それを言わせてる時点で気楽な描写ではない。
裁かれるべき罪であることを、明らかに示している。

だからこそ最初から最後まで、裁判のような場で進む会話劇だったんでしょう。
責められているのはストローズではなく、開発した科学者でもなく、アメリカやそれを決めた政治家であるととらえて見ていました。大統領もそう言ってたしね。

「物理学300年の成果が、大量殺戮兵器なのか?」というラビの問いかけは、科学に携わる人、組織、国が常に考えておかねばならない問いかけでしょう。
SDGsがどうのとか表面的なことで騒いでる場合ではないわけですよ。

それくらい、戦争を起こしてでも他国に勝とうという姿勢の国が出てこないように、バランスを取れるようにしていかないといけない。
核の技術開発が戦争を止めたようで別の冷戦という形に世界を破壊したように、
この先もまだまだ戦争リスクはあるのだから、その変化を戦争以外で受け止められるようにしてかないといけない。
オッペンハイマーのような科学者と政治家どちらもやれるような人はそういないのだから…
難しいでしょうけど。



ただオッピーは支えが必要だからとセックスして、仲良しだからと不倫もして、結構やり放題だったのは意外でした…
というかあんなにおせっせシーンがモロに出でくるの予想してなかったし、しかもそれな実際の妻ではないとは……
それはそれで別のインパクトでした。妻に見せつけるシーンもエグすぎる!でも奥さん強いな!ロブ弁護士に言い返したシーン気持ちよかったで!
「キティはくる」と最後まで夫婦の絆を描いてくれたのも好印象でした。
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