ロッツォ國友

笑いのカイブツのロッツォ國友のレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.2
ほーーーーーー!?!
いやぁ、なかなか面白かったです!!
原作者の本名そのままにした赤裸々なタッチでの"全然劇的にならない"自伝。
イイね、これ。

邦画ならではの色味と空気感を大切にしつつ、邦画っぽい臭い展開には全然ならず、いつまでもいつまでも情けなくてカッコ悪い。

いやー良かったな。
新年新作からアタリ引いたぜ。



岡山天音、随一のハマり役だよなーー!!
彼にしかできない仕事だった。
いつも弱くてダメな陰キャみたいな役をやらされてるとは思うけど、今回みたいなのは本当に彼にしかできない。

空気感含めて、バッチリよね。
言われて嬉しい役かどうかはさておき、まぁ役者冥利に尽きるのではないかと。


まぁ…一方で、体付きはあんまりあってる感じしなかった。
普通に鍛えてる細マッチョで良い体してるが、実態はそんな感じじゃないんじゃないの?

そこそこ内臓悪くてロクなもの食ってなくて酒ばっかりな上に弱いんだろう?
実物はともかくイメージ合ってない気がした。

なので雰囲気と顔はバッチリだが、カラダは合ってなさそうな印象。
(実物の体つきがかっこよかったらすんまへん)



ま、いいんですよそんなことは。
あたくしが何より言いたいのは、ツチヤ氏のあの実在感(居るけど)は本当に凄いっことだ。

映画やドラマで観るどの陰キャよりも陰だ。

なんかこう…暗くて、どこか変で、とびきりダメな奴。
完全無能かと言われると実はそうではなく努力込みで笑いのスキルはあるが…非凡な才能があるかといえば、まぁ、ないわけでもないけど天才とは言えないライン。


精神性やスタンスはある種 病的ではありつつ、しかし自殺する胆力も凶事件を起こすパワーも歴史を変える天才性もなく、ただ強めに変な奴ってだけ。

無個性というには色がつきすぎているが、
何者かになるほど輝いてはいない。

ものすごく絶妙に、どの路線もどのキャラクターにも走り切らない中途半端さとダサさがひたすら披露される。

痛いけど、笑い者にするレベルでもない。
クズというほど悪くなれずカスと吐き捨てるほど無価値じゃない奴。


前半こそホアキンのジョーカーみたいだなと思ったし、まさしくそういう話に見えた(少なくともプロモーションはそういうミスリードを誘おうとしてた)けど、全く違う。

ジョーカーほどの不幸も、ジョーカーほどの狂気もないが、可愛げがないからやっぱりどこにも収まらずに生きてくしかないのだ。


どこに行っても怠け者のダメ野郎に映っちゃうが、敢えて擁護をするならば、彼の中では周囲と全然違う時間が、全然違うテンポで流れているのだろうね。
思考のテンポもピントもズレてるからいつまでもいつまでも周囲に疎まれるし、実社会と噛み合わない。

絶望的に、テンポが合ってない。
奇跡的に合わせてくれる奴がチラホラとは居たわけだけど、そこにすら悪態をついてしまう行儀の悪さだったり、有り難みを感じられずウソでも表現できない愚かさだったりが先行してしまう。


本当に、こういう人はそれなりにいるんだよな。

決して物語にはならない奴。
なぜなら、敢えて言うなら、「ほとんどの人が見ていて腹の立つ存在」だから。

手を差し伸べてもあの感じなのだから、「もうええわ勝手にせえ」と匙を投げられハシゴを外されるような奴。


一人のキャラクターの脚色として、こんなにもカラフル且つ無色(≒無職)にできるだろうか?

物語としては、先を見たいような見たくないような"怖いもの見たさ"をクリフハンガーにしつつ、本人はずっとどうしようもない奴のままである(若干の成長は見られるけど)ってのが、個人的にはとても斬新に見えた。

どんなダメ人間を描いた作品も、どこかでダメじゃないシーンが出てくるものだけど、本作のツチヤ氏はマジでずっとダメなままだ。

本当に何してもダメなんだけど、ちょっと笑いのスキルは「まぁまぁ以上程度」にあり、しかしそれを無に期すほどのコミュニケーション能力の低さ。


すごいよこれ。
ほぼ2時間全部、何一つ劇的なシーンにならないでいさせる技術。

これ、映像技術の感じから言って、決して製作者の皆さまが劇的にできないのではない。
劇的にしない選択を、敢えて取り続けている。

取るに足らないダメな凡人を、マジで
「取るに足らないダメな凡人」
として描き切っている。

それなのに観ていられるし、面白い。
すごいよ。


実際の彼は、今は裏方の作家として暮らしているらしいんだけど、だから益々、どうとでも"面白いキャラクター"…即ち「みんなが望みそうなピエロ」にできたはずなのにのに、一切それをやってないのだ。

本当に、1ミリもやってない。
おもんないダサい日々を、ホントにおもんないダサい叙事詩にしてあるんだよ?
でも何故かそれが、そのリアリティ故なのか、おもしろいんだよ?

だから この映画の一番凄いところは、「何も凄くない」ところ…と言っていいだろう。
笑いの作家にとっての武器は虚構なのだろうが、本作の強みは紛れもなく「剥き出しのリアリティ」そのものにある。



あと、自伝映画として見るならば、脇役が豪華ってのもミソだよな。

主役を除いて、彼の人生…というより彼の心に光を当ててくれた存在だけ、名の知れた豪華キャストを当てつつ徹底的に"良い人"として描いている。

そもそもこの自伝そのものが、不器用なツチヤ氏からの感謝の手紙に見える。

作品の中でとびきり綺麗に描いてあるところに、ちっちぇーー声で言う「アリガトウゴザイマス」にも通ずるような、彼本人の不器用さと感謝の心を感じられる気がする。

だから、お世話になった人の配役も描き方もバッチリだったかなと。


仲野太賀、松本穂香、菅田将暉はやっぱぶっちぎりで良かったよな。
ツチヤ氏の怖いくらいの実在感に対して、彼らはキャラクターとしての存在感で向き合うカタチになっているわけだ。

とびきり魅力的な人物にだけ仲良くしてもらえているように見えるけど、前後関係が違うね。
仲良くしてもらった人物が、とびきり魅力的に映ってるんだよね。

あと、彼らの存在が画面に華を添えていることで、なんか観ていられる一つの要素になったのではないかな。


余談ですけど、関東の人間なので正しいジャッジはできないものの、関西弁が唯一しっくりきたのは菅田将暉と松本穂香だけかもしれん。
二人だけはやっぱり上手いというか、自然だった気がしたよ。知らんけど。



演出面は…音楽がちょっと過剰でウルサかったかなーーー難しいところだけど。

感情や考えをカオにもコトバにも出せないような陰キャの心情を語る為に、演技としては出しにくいから音楽で補填したんでしょう?

分かるけど、これは良くないよ。
演出としてクサいし、冷める。

そしてクサい・クサくない以前に、この複雑でめんどくせえ鼻つまみ者の心情を、
「分かりやすい音楽で飲み込みやすく味付け」
すること自体が、作品や彼自身のスタンスと噛み合ってないので、逆に、口当たりの良い音楽だけがとても浅薄に感じられた。


これは極論だけど、究極、本作を観ている間はツチヤ氏の心情なんて分かんなくて良いのよ。

ここまで劇的にならない脚色で通してきたんだから、終始「なんだこいつ」でいいのよ。
で、そのワケ分からん社会不適合者の失礼極まりないリアクション一つ一つを、理解できないなりにも推し計りながら見守るのが新感覚で興味深い映画なんじゃないの?

安い演出で周りに理解してもらえるタイプじゃないし、そのくせ安い演出的なものをとことん嫌う奴だってのは、ベーコンズのくだりで痛いほど分かっただろう?

だからいいよ、彼の心意気を説明しなくて。
音楽は余計。
説明的なBGMをかけるにしても、主張を今の50分の1くらいにしたほうが楽しめたと思う。

逆に言うと、本作で良くないと思った点は音楽だけなんじゃないかなと。



余談の余談の余談。
ちょっと前に30台に仲間入りしたボンクラとして思っていることがある。

それは、
若かったり未熟だったり、あるいはそれを自覚していたりすると、
「何者かにならなくては」
と思いがちだが、しかしそれは叶わないというか、否が応でもそうはならないということだ。

ホントは
「自分は自分でしかないので、何者にもなれないし、ならなくて良い」
のではないかと。

成長とは既存の誰かになることではなく、自分を知ることだと思っている。

自分とは異なる理想の誰かみたいになるんじゃなくて、自分の持ち味をどこにどうはめ込むか?を知ることが"自分の居場所"を作るのではないかと。

誰も彼もが"自分らしさ"などとよく言うが、実際には、色々な事に首を突っ込んで、色々な所にぶつかって初めて、自分の形や居場所を少しづつ認識できる程度のもの。

それをやっていく道のりこそが人を育てるのだと思うし、その先で手にできるものこそ、既存の誰かの模倣ではなく、本当の意味での"自分自身"そのものなのではないか。


ツチヤ氏はずっと"伝説の何か"を目指しているが、穴の先には似たような部屋しかなかったし、「レジェンド」の称号も、認定された人が多すぎて価値がなかったでしょう。

そして彼が小説?に書いたこのしょーもない魅力的な人物は、むしろ他の何者でもなかったわけでしょう。

渋くてしょっぱい人生を、ありのままカッコ悪く描いたこの作品こそ、何者にもなれない人々の焦りに対するエールでありメッセージになっていると思う。


地に足をつけた…というか、地から足を離せないままのカッコ悪い自伝だからこそ、迷いの中にある人の心に届くのではないか。
そういった点でも、極めて意義深い作品だと思った。



うん。とても面白かった。
途中、コレはどう転ぶんだろう……と思っていたが、生きる日々って本来そうですよね。
みんな見えないまま進むんじゃないですか。んで、後から振り返ると見えてくるものがたくさんあるんじゃないですか。

いいな、新年新作一発目から当たりでしたわ。
真摯な姿勢で人間を描く良い邦画。
ごっつぁんでした。
ロッツォ國友

ロッツォ國友