ロッツォ國友

ナポレオンのロッツォ國友のレビュー・感想・評価

ナポレオン(2023年製作の映画)
3.0
フランス…
陸軍…
ジョセフィーヌ……


…の三語が、この映画の全てです!!!


「ナポレオン」なんて、今やなかなか勇気の要るであろうド直球のタイトルをつけているので伝記映画かと思ったが、にしては描写があまりにも偏りすぎている。

思うにこれは、ナポレオンの客観的な事実を述べてゆく"伝記映画"ではなく、ナポレオン自身の興味や視点に沿って構築された"自伝映画"という方が相応しいのではないだろうか。


よって、大衆が知るナポレオンの伝説をなぞったり、歴史的に重要なポイントを描写したりといった所謂ファンサービス的なシーンは皆無に等しい。

何故なら、ナポレオン自身が愛しているのは「フランス」と「陸軍」と「ジョセフィーヌ」だけだから。

この三つだけが、ナポレオンの全て。
フランスと陸軍とジョセフィーヌのみを愛し、やがて破滅させ、同時に破滅させられた…と言えるでしょうね。



伝記映画のつもりがない。
だから彼自身が全然かっこよくないし、彼の伝説を"リメイク"しようという気概がまるでない。
彼がいかに偉大であったか、どんな実力があったのか、といったところがまるでわからない。

大学受験で世界史をやってた程度でも分かる範囲でいうと、それまでは大砲の砲弾がどんな風に飛んで着弾するのか殆ど理解されていなかった中で、ナポレオンだけはそこに数学の概念を取り入れ、正確な着弾地点を計算できることを証明した、とかが欲しいわけですよ。

それが後の弾道計算です!みたいな、なんかそういう彼特有の功績を讃えるような描写が全然無いわけです。

弾道計算において偉大な功績を残したというのに、なんか大砲へのこだわりがありそう……くらいの語り口に留まっているのは、彼にとって弾道計算はトップオブ興味に躍り出てこないから、なんでしょうね。


よってこれは、ナポレオンの伝記というより自伝に近しいポジションなんだと思う。
彼の直筆サインをタイトルデザインにしてるところからも、そういった意図が透けて見える気がする。



ということで、本作全体の描写においてもナポレオンが愛したものにだけ焦点が当てられており、そのほか全てがなんだかピントがズレている……そんな感覚がある。
歴史のうねりそのものは説明されないというか、大河ドラマのダイジェストみたいな薄い描写しかされていない。
わざとなんでしょうね。
彼にとっては大して興味のある対象じゃない。

一方で、ジョセフィーヌと陸軍とフランス描写だけはズバ抜けて素晴らしいのだ。
力の入れ方が段違い。



①ジョセフィーヌについて
何はともあれヴァネッサ・カービーが美しすぎる………
こんな人いた??初めて見たような、どこかで見たような……
ナポレオンが夢中になるのも納得の美貌で、説得力のあるキャスティングですね。

「私がいなければただの男」との呪いのような言葉通りに、ジョセフィーヌを離れれば離れるほど運に見放されるような展開には恐怖を覚える。

実際、そんなセリフを本気で言えるだけの圧がある時点でそうなっている…ような気がする。
だから、本作劇中においてはただでさえ少ないナポレオンの威厳やカッコよさみたいなものが、彼女の前ではさらに失われ、本当に哀れな男として映る。

人前では強気に、強大な夫のように振る舞ってみるが、現実はほぼ逆である。
それでも跡継ぎを授かれないということで離婚に発展するわけだが、後半にかけては

「国家的な夫婦のパワーバランス」

「実際の夫婦のパワーバランス」

との強烈なギャップに大変苦労する描写が数多くあった。

ジョセフィーヌ無しではやっていけないのに、ジョセフィーヌありきでは政治のトップに立っていられない。

書類にサインするシーン以降の全てが悲痛。
ジョセフィーヌの気持ちを思うと不憫でたまらないが、当時の政治の世界においては無限にあるような事例であろう。
二人の愛憎が、ある意味フランスの命運を左右していたことが伺える特異な描写だった。



②フランスと陸軍について
ジョセフィーヌ以外の客観的要素において丁寧に説明されているシーンが全然無い中ではあるが、合戦の迫力は凄まじかった。

それでも、彼の戦法がどれだけすごいかとか、かっこよく指示を出すとかそういうのはあまりなく、戦況を見つめているだけのようなシーンが多かった。
彼自身や彼の作戦を劇的に描写する場面は、結局あまりない。

そして後半に行くにつれて、それはナポレオンが負け始めるにつれて、描写の粒度がより詳細になっていっている。

勝ち戦より負け戦をより描写したかった?
敗北の方が彼の中では強く残ったということだろうか?

騎馬隊や歩兵隊の配置が上手いとか、大砲の扱いが革命的だとかっていう彼の強みが生かされようが、数を揃えて"国際社会"として結託されては勝ち目がない。

数々の伝説的な勝利に支えられた彼の人生も、晩年は何かに見放されたかのように転がり落ちる悲劇へと姿を変えるわけだが、本作ではその根拠を一貫して「ジョセフィーヌの不在」として描いているし、それに十分な説得力が与えられている。



確かに、彼を"ただの男"として捉えるなら、大局的な歴史や政治よりも、「妻と祖国と沢山の部下」こそが自らの全てになるだろうし、であれば、本作の非常に偏った描写にも納得がいくかもしれない。

こうまでナポレオンを"小さく"描くとは…
なかなか攻めた力加減の映画でしたね。



以上でござんす。
全編英語はどうなんや?と思わなくもないが、かなり穿った、逆張り的な描写に終始する作品だったので、中盤以降はあまり気にならなくなったかな。
そもそも真面目に伝記をやる気がないので、言語なぞ瑣末な問題なのであろう。

北野武の「首」もそうだったけど、最近「歴史的に重く扱われてきたあの人を真逆に描いてみるよ!大河とは違うよ!!」なノリってもしかして流行ってるのかね……?

面白いとは思うけど…別に歴史ヲタクじゃないので、普通に重く扱った大河をこそ観たいですけどねあたしは。
かっこいいナポレオンでいいじゃん。

その意味では、終盤の合戦シーンはかなり楽しめたかなと。
作戦を考えてるみたいなシーンがないのでやっぱりナポレオン自身はあんまり映えないんすけどね。


てことで、トータルでは面白かったけど……まぁなんか、ストレートにカッコいいのを期待してたので、どことなく楽しみきれない感じは拭えなかったかもなぁ。
可もなく不可もなくな着地ですかね。。
うーーーーむ。。。
ごっつぁんでした。
ロッツォ國友

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