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母との距離のpandenのレビュー・感想・評価

母との距離(2018年製作の映画)
3.6
東京国際映画祭TIFF2018で鑑賞。

映像での心理描写が巧みで、終盤に向かうに連れのめり込んでしまったが、
それと同時に、邦題のセンスの無さにまたも悲しくなる作品だった。

冒頭は淋しげに過ごす妙齢の女性の一人暮らしを描くのだが、
そこに突然現れる元夫、そして家族の元に戻され、気まずくもまた一緒に住み始める妻。
娘2人との関係に苦労し、夫との間もギクシャクしながらも、夫の愛で引き止められ…

ここまではよくある展開だなと思っていたのですが、
娘達(特に姉)の行動から全体が動き始め、物語の核心が見えてくる……

この作品は、家族同士の関係性が直接的でなく、間接的に表現されているシーンが多く(故に端々に謎が残り、後で回収される)、
特に「沈黙」の仕方によって、多くを語っているのが秀逸でした。
(後のトークでも、俳優から"その演技が難しかった"という話が出ています)
言いたいことを言えず、我慢し、しかしその状態にも不満があり、でも幸せを考えて維持し、しかしそれに苛ついて…最後には爆発する。
ここのリアルさは、監督も強く意識したそうで、本当に見事でした。
(この辺りの表現技法は、是枝監督の『そして父になる』など、いくつかの作品に影響を受けたそうです)
映画の「ファンタジーな答えの出し方」ではなく、「リアルな関係性」を追求したというのはその通りだなと。

終わり方も非常に独特で、物足りないと思わせるものなのですが、
それまでの表現の仕方を見ていると、
これこそが監督の表現したい、本当の「DISTANCE」なのだと感じることが出来ると思います。

故に、『母との距離』ではなく、原題の『D I S T A N C E』こそが、それを表しているように感じて、私は好きです。

ネタバレ回避のために終わり方は書きませんが、是非実際に見てもらいたいなと思います。
フィリピン映画は初めて見ましたが、こういう表現の力がある監督の作品ならもっと見たいと感じました。
(今回は原作に惚れて作ったそうで、前作は相当明るいファンタジーものだったそうですが笑)
※フィリピンを舞台にしていますが、背景が分からないと理解できないような描写は少ないので、見やすいという意味でもオススメです。
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