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氷の季節のpandenのレビュー・感想・評価

氷の季節(2018年製作の映画)
3.8
東京国際映画祭TIFF2018で鑑賞。

デンマークの古い農村地帯で描かれる、人間の愛と業と罰が入り混じったような作品。運命の巡り方が、どうしようもなく切なく、えぐい。
監督は非常に明るく話の面白い方でしたが、本人も言うようにとてもダークな世界に引き込む、力強い作品でした。
それだけ様々に考え、調べ、練り込んで作っているそうで、納得の内容の濃さです。

冷たく、肥沃ではない厳しい土地で、古くから続く地主として土地と牛と穀物を守ってきた老父Jensが、
自分のプライドと、家族と、友人とを天秤にかけ、
生き抜くための保証を得るために何を捨てるか苦悩しながらもがいて、掴んだと思えば、運命に弄ばれていく…
その結果は常に明るいものにはならず、どこか辛い結果がつきまとい、それでも前を向いて、守るべきもののために何かを捨てていく。

Jensを演じたChristensen氏の表現は本当に見事で、
老父が出来る限り奮闘し、かろうじて得られる幸福と、その限界を常に見せられ続ける冷酷さとのコントラストに引き込まれました。
辛くも、美しいストーリーだと感じたのは、
デンマークの冷たく暗い農村の風景にマッチした、美しい演奏のためでもあったと思います。
(Danish String Quartettというグループの、伝統音楽を現代風に解釈しアレンジした曲を使っているそうです)

これまた原題のBefore the frostの方が、見終わった後の感覚に非常にマッチしており、『氷の季節』では味気がないように思えます。
frostに何を思うかを様々考えられることが楽しい、美しく悲しい作品でした。

※作品に監督が込めた思いについては他の方も書いてくださってるようなので割愛しますが、
親子愛、特に「親が何かを犠牲にしてでも子のために残す」愛情について、ヒントをもらえたような気がしました。
この時代を監督が選択したのも、「今はお腹が満たされているから、恋愛感情を重視するのが普通だが、昔は結婚による安定を重視していたことが、古い民謡にあった」という話も興味深かったです。
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