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アリータ:バトル・エンジェルのpandenのネタバレレビュー・内容・結末

3.1

このレビューはネタバレを含みます

※原作の銃夢はLOまで読破済み(相当昔)。
 見てる最中から原作を読み返したくなり、Kindleで書い直し一気に9巻まで読みました。最高の作品です。1,2巻が今無料なので是非。

●良い点
可愛く元気で、とても純粋な少女が活躍するアクション映画として、とても楽しい映画でした。
機械の体と記憶のない自分、希望の見えないクズ鉄町で、懸命に生きる人々。
その中で純粋に世界を楽しみ始めた少女が、生身の異性と心通わせ、機械と人の壁を超えて愛情を知る。

全体的に美しいストーリーにまとまっており、アクションも最高です。
こんなに美しいグラフィックで動いてるアリータ(ガリィ)を見られるだけでも十分見る価値がありました。
CGは日々進化してますねぇ。

●悪い点
ただ、それだけだったので3.1。
2回見たい映画ではなく、ストーリーは上に書いた通りのハリウッドっぽさが強いもので、原作の良さは設定のみでほとんど消されています。
名場面をいくつかそのままにしてくれていますが、
文脈がなければただの「場面」です。味の深さは無かったのが本当に残念でした。

恐らく2時間映画に詰めるために、細部の大事な描写を省いたんでしょうが、だったら「銃夢」でやる必要あったのかなという気持ちに。
定番の恋愛アクション映画は安定だが飽きるので、「銃夢」の外装で味付けを変えただけに見えます。

以下は原作と比べて整理しながらの愚痴もどきです。

大きくマイナスポイントになったのは以下の3つ。

・ガリィが少女と兵器の二面性でしか描かれてない
ガリィは無垢な中に強い意思を持ち、人を愛する小さな女の子ではなく、
殺人に抵抗がない純粋すぎるアンドロイド少女になっており、魅力が半減。
人とのつながりを持たないアホの子にも見えます。ユーゴに恋してるだけだからだろうな…
心情描写が圧倒的に減らされているので、葛藤が見えないからだとも思われます。
何せ、敵対した人たちをガンガン殺しても、ほとんど逡巡も悩みもしないんだもの……

・ノヴァ教授がただの巨悪に
プリンを食べて「おいちぃ!」なんて絶対しそうにない、
ハリウッド映画でありがちな頭の良すぎるヒールとして出てきて、
裏で全て糸を引いてるボスに成り下がっている。ここが一番がっかりしました。
眼のプロテクター?も外せるようになってるし…

・終わり方が中途半端
どこまでやるのかなー?と思って見ていたら、ちょっとモーターボールで有名になったガリィが、ダマスカスブレードでザレムを指して終了。
なんだそりゃー!?って感じですわ。
劇中の観客は盛り上がってたけど、映画の観客おいてけぼりですよ。
ジャシュガンも一瞬出るだけで、完全に噛ませ犬じゃないですか…あの熱いバトル、魂のやり取りはどこにいったんだ。

・クズ鉄町が明るすぎる。原作のテーマがそのおかげで消えてる。
そもそもかなり明るく描かれているので、退廃的な原作のイメージはなし。
そのおかげで「なんでザレムに憧れるのか」が謎になっています。
※一緒に見た子もそこに疑問を持ち、アクション映画として楽しかった程度の感想に。

銃夢は全体として、「アイデンティティの捜索する人々の葛藤」を描いているように見え、
人とのつながりを得ながらあがいていく中でやっと見つかるものだと説いているような印象があります。
そしてその中には狂気も交じるもので、それこそ個性であり、狂気=悪ではないと。
このためには「暗い地の底」と「天空高いザレム」のイメージは必須だと思うんですが、それを削って何を描きたかったんだろう。

この早大なテーマを、興味深いSF世界で、全体が入り混じって描かれるからこその作品だと思っているので、
ここが断片的になってしまっていたのが勿体無い、というのが序盤から感じられました。
たぶん原作ファンはずっとそれが脳裏によぎって、モヤモヤしながら見ることになると思います。



そもそも「アリータ」って、ウロボロスの中で見せられた「理想的な夢」の中でのガリィの呼び名だったんですね。
読み直してやっと思い出しました。そりゃ原作と違うわけだ…
ウロボロスの中ではノヴァ教授もメガネみたく外してるしね。
ウロボロスの中の世界を模して作ったんですかね、これは…

イドも優しさの裏にある狂気がなく、愛憎の複雑さを考えなくて良いシンプルなキャラに。
ザパンもほぼただのヤンキーに成り下がり、アイデンティティへの苦悩が消えてる。
何よりKANSASのごろつきとの友情が消えたのも悲しい。

マカク→ユーゴ→モーターボール(序盤)
を一つの映画にまとめようとしたチャレンジは良いですが、
あまりにも大事な部分を削ぎ落としすぎて、そこが悲しくて仕方なかったですね。
ストーリーへのリスペクトが微塵も感じられなかったので、パンフレットも買いませんでした。
やはりハリウッドは商業なんだなぁという映画。

もし原作ファンで見たい方がいたら、映画館での視聴をオススメ。
映画館で見ないなら、見る価値はあまりありません。
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