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ビューティフル・マインドのpandenのネタバレレビュー・内容・結末

ビューティフル・マインド(2001年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

ネトフリで視聴。
ジョン・ナッシュは大学で習った「ナッシュ均衡」で知ってはいたけれど、こんなエピソードを持った人だったとは全く知らなかったので、視聴後かなり打ちのめされました。

最初は「会話がズレてて上手く出来ない、ADHD気味の若き数学者」として描かれ、
プリンストン大学で数学をやってる変な学生くらいの描写だったので、
『エニグマ』のチューリングを思い浮かべて同じ展開を想像していた。
教授職にまでなり、大好きな数学をしながら慣れない授業を行う中で、
美しい学生の恋人まで出来、とうとう結婚までこぎつけ、「幸せに続きそうなのはエニグマと違うなぁ」と安心して見ていた。

でも油断でしかなかった。
彼の美しい「成功の人生」に、「友人との会話のズレ」や、「信頼している”親友”とのいさかい・過激化する言動」から、
少しずつ違和感が入り込み、彼の行動も少しずつ狂っていく。
研究に固執したり、追手に怯えたり、妻に怒鳴ったり。
突然の変化が観客を混乱させ、不安にさせていく。

この辺りから少しずつ視点が妻に移り、
そこから見た彼の行動、そして「研究」の”異様さ”が初めて明かされる。

ここからの「統合失調症患者」の異常とも言える「非実在人物からの叱責、嘲笑、何かに追われ、叫ばれ、囁かれ続ける感覚」の怖さ。
「自分の使命はこれなのだ」と信じて、一つの行動に執着する狂気。
これを妻の視点からの恐怖で描いていく様はとにかくエグい。

それでも愛する妻と、そんな妻を傷つけたことで正気に戻ろうとするナッシュの姿。子供と妻のために自分を取り戻そうと最後まで残った「心」がある。
だからまだやり直せる。
それを支えてくれる旧友の存在含めて、『Beautiful mind』なんだろう。

長年寄り添った”頭の中の親友”の姿を否定して、苦しみながら前に進むナッシュが最後にまた学生から慕われ、人が集まって、表彰を受けるまでになる。
それを老いた妻を前にして、「ずっと支えてくれた人がいるんだ」と打ち明ける場面は本当に良かった。
こんなに周りから「共感できない」「怖い」病気でも、それでも信じてそばにいてくれる人ってのは美しいですね。

数学の難題に挑戦する人間の心の病を、統合失調症の描写と共に描くことで、辛くも美しい話にしてるのは見事。
色々と実話と違う脚色はあるようだけど、それでもこの作品に出会えて良かったと思える名作でした。
かなり腹に「ズン」と来たのに、見終わった直後にもう一度見たくなったのは自分でも珍しい。
また観ます。

※今更ナッシュ均衡についてちゃんと理解したくなりました。
 途中の恋愛市場の話が分かりきらなかったので…たぶん「分け合った方が全員の利得になる」って話なんで囚人のジレンマなんだろうけど。
※「数学的なセンスが飛び抜けてるから一瞬で暗号分かっちゃう」の描写気持ち良いけど、あれも虚構だったんですかねぇ。某天才数学者のような直感型もいるようなので、本当にありそうで、だからこそこの作品の「現実と虚構の間」の描写が生きてくるんでしょうね。
 数学は誘蛾灯のように、人を惑わせる美しい学問ですね。
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