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52ヘルツのクジラたちのGyGのレビュー・感想・評価

52ヘルツのクジラたち(2024年製作の映画)
4.5
本作は、親からネグレクトや虐待を受け、年頃になればヤングケアラーを押し付けられ疲弊していく子ども、トランジェンダーであることを隠しながら生きていく人、などを取り上げた時事性の高い作品です。

おそらく実際にあった虐待などをベースにしているのでしょう、シビアな場面が多いです。
本作はトリガーウォーニング該当映画であることから、具体的場面には触れず、本筋を追っかけるためのヒントや、印象に残った表現などを少し考えてみました。

・倒叙法が多く、字幕スーパーで表示される時、無い時あり。
無い時は、セリフや身なりで分かります。

・終盤、六角テラスに立ち追憶にひたるキナコ、その傍に寄り添うように近づくアンさん。
よくみると彼は靴を履きキナコは裸足。
遥か彼方に旅立つ前、キナコに最後の挨拶をするため立ち寄ったのか?
心残りがあったのか、何かを約束したのか、キナコと視線を交わしそのまま静かに旅立ったのか?
約束をかわさない愛、かわせない愛もあるのではないか?
余韻を残すシーンです。

・キナコとアンさんは杉咲花、志尊淳以外に考えられないです。
この二人だからこそ、新しい愛のかたちの映画が出来上がり、みることができた、そう思います。

・6年前、神田松之丞(現・伯山)に子どもが生まれた時、カミさんから「男の子の体で生まれても女の子の心があるとかになれば、それはこの子が決めること。だから今から男とか女とか、そんな言い方はしないでほしい」と言われ、「それはそのとおりだ、お前はジェンスーより進んでいる」云々。←能町みね子の文春文庫記載記事を抄録したもの
トランスジェンダーの能町ですら「性別ぐらいは聞いちゃうなあ」という認識だったのが、年々認識レベルは上がり、同性婚を認めないのは違憲とする高裁判決がでるまでに進化。

・今はシスジェンダーとトランスジェンダー(LGBTQ+)が全集合のようですが、ポリアモニー・ノンバイナリーなどいろんなタイプの人たちの意思・行動様式が明確になるにつれ、シスとトランスの区分すら曖昧になるような気もします。
その時は区分の再構成も一つの対応でしょうが、それよりも区分間の軋轢を減らすことやジェンダー問題に寛容になることの方が大事なのかもしれません。

以上、本作は厳しい現実を観客に突きつけているし、そんなに明るい未来も描いてもいないですが、私たちの今いる地平を示してくれた点で意義があると思いました。
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