ロッツォ國友

ザ・クリエイター/創造者のロッツォ國友のレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.3
「龍角散ダイレクト」の文字列をハリウッド映画の画面で見るなんて………



「ローグワン」と同じような、「ローグワン」っぽいビジュアルの、「ローグワン」みたいな話でした!!!!!
スカリフのアレ、役割も見た目もそのまんまやないか……

これまさに、細田守監督が「ぼくらのウォーゲーム!」を基にして「ぼくらのウォーゲーム!」っぽい話である「サマーウォーズ」を作った時と同じような感覚だよね。
雇われて作った作品を、改めて自分のフィールドで自作品として完成させたイメージ。



本作、とにかく「ビジュアル」が凄い!

CGの完成度も、あらゆる物体のデザインも、生活感表現も、アクションの組み立ても、世界の実在感も素晴らしい。
そして何より"ロボット"の存在感がスゴい。

AI…もとい、ロボットと人間が完全に混じり合った世界を見事に描きつつ、何よりそれを魅力的に演出している。
ただのリアル方向というよりは、もっと詳しく細かく知りたくなるようなキャッチーな演出が光っている。


で、これだけの重厚感あるビジュアルでどんな映画なんだろうと思っていると…唐突にダサいフォントのクールジャパニーズカタカナワードが飛び出してくるのだ!!

え、そっち系すか??
交通事故レベルである。
びっくり仰天である。

あまりにも壮大且つ美麗なグラフィックに騙されてしまうのだが、本作はこんなノリにも関わらず、物好き趣味ど真ん中のB級SF作品にして、トンチキジャパン愛好映画なのである。

……「もういや遊牧民」って、どういう意味???



……とかは一旦置いといて、本作最大の長所はやはりビジュアルの素晴らしさ。
この一点に尽きる。

ロボットも兵器も、ロボットと共存するヘンテコな世界含めてデザインが見事!

あと、音楽使いも最高。ハンス・ジマー様の仕事ももちろんだが、レコード的に差し込まれる挿入歌もなんか絶妙なラインを突くセンスで超好き。

このワケ分からん世界に観客を没入させるのはそれなりに大変な所業になるが、視覚的・聴覚的に研ぎ澄まされているがゆえに食あたり感が薄く、意味が分かってないままでも引き込まれる。
この辺、よくできてると思いますよ。


この手のSFにはよくあるノリだが、"未来技術で作製されているが現行デザインを踏襲していて、しかもそれ自体が古くなって年季が入っている"というあの感じの機械が数多く登場していてこれまた楽しい!

全体的なデザインの発想自体はよくある使い古されたB級のそれだが、一つ一つの完成度・品質が極めて高いレベルに仕上がっており、見た目においてガッカリする点は皆無と言っていい。


あとAI辺謙もめちゃくちゃ良かった。
普通にカッコいいキャラになってたね……"AI側の人間"って立ち位置というか。
主人公のことを「兄弟」って呼ぶのにこだわるところがアツくて好きだったけど、もしかしてヤクザデザイン的なことなのかな?

あと野暮なんですけど、酒とかお茶とか飲んでるように見えるんだけど口に入れた後どうなるんですかね……??w


にしてもロボデザインが最高なんだよなーー
ーー!
人間を模倣しただけ(何故か強度や筋力も人間レベル)の警察ロボもやられモブとして好きだし、エッチな装いの奥さんロボが"アイスクリーム"を見た瞬間の反応もなんか人間臭くて良かったんだよね。

でもアタイが一番気に入ったのは、丁寧なご挨拶を述べた後敵陣に突撃して自爆するドラム缶ロボかな。
絶対ヒトの形じゃなくてよかったでしょ。

とまぁ、適度にツッコミたい箇所が出てきてちょー楽しい。
ビジュアル満点。



さて、問題はストーリーなんですけど………全半部こそ壮大な叙事詩として積み上げているように見えたのだが後半は…なんかメッセージ的にも展開的にも散っちゃったというか、全般にスケールダウン&トーンダウンしてった感じが否めない、かも。。。

あ、ストーリー的にも普通に凡庸なB級なんですね…っていうのが正直な感想。

前半があまりにもよくできてて、且つハンス・ジマー・マジック効果もあって勘違いしてたが…全体で見ると、やはり上述したように、所謂B級SFモノというジャンルに収まる。
というか、収まっちゃってる。

ひょっとして、元々B級SFのつもりだったのかな……?


併せて、これはギャレス様の悪癖と言うべきなのか、
「絵的にも物語的にもキレイな終わらせ方」
にこだわり意識しすぎるあまりに、クライマックスからそこに至るまでの過程が妙に駆け足&雑な詰め込み展開になってしまっている。

「ローグワン」の時もまんまこれだったんよね。
(デス・スターの設計図のデータ量が大きいから、それを送るための電力とかアンテナとかのゴタゴタを終盤で急に説明し、そのために色んなキャラがギリギリ無理そうな試練を課せられつつ怪我を負いながら話が進んでいく…みたいなノリがもうそのまま)

別にいいんだけど、終盤があまりに結論ありきで話が進むし、それが見え隠れするのでちょっと熱が下がってしまった。
強引さを消せなかったもんですかね…尺の配分の問題なんだろうか?



というわけで、トータルのお話的には「まぁこんなもんか」って感じになっちゃったんだけど、それでもビジュアルセンスはピカイチだったと言えるだろう。

結果的に、ど真ん中B級SFジャンルの、主に完成度の面でのハードルを爆上げする存在になるじゃないだろうか。
ケレン味の巨匠の階段を登り始めた感覚。

「ローグワン」はもちろんのことだが、「エリジウム」&「チャッピー」とか、「ブレードランナー」とか「アバター」とか、あと「猿の惑星」シリーズなんかのテイストも強く感じる。
B級的なるものの総括的な立ち位置に見えるよね。

そしてそういったイイ意味でのサンプリングが、非常によく出来ている。
ここに文句はないですよ。




で、一番気になったポイントを、テーマ的なネタバレも込みで書きますと……

この話ってそもそも、AI・ロボットが不当に人類を傷つける描写が、全く無いんですよ。

つまりよくある
「ロボット三原則が打ち破られて人類V.S.ロボットの戦争になる!」
ではないってことなんですよね。

これ、個人的に超重要なポイントだと思っている。


戦の原因とされている例の核攻撃も結局人間側のミスが原因だったし、最終兵器も無垢で攻撃意思のない子どもだったので、ロボット側に過失が全然無い。
全く描かれない。

つまり人間V.S.ロボットという土俵に行き着いてないわけだから、「人並みに進化したロボットとどう折り合いをつけていくか?」といった問い掛けはテーマにならないし、そういう葛藤を取り上げるつもりが無いんですよ。

言ってみれば人類とは異なるイノセントな生命体が出てきたみたいな構図になっているだけであり、こういう物語なら必要なはずの、ロボットと人間の間にあるべき"溝"がない。

異なる視点の対立からなる戦争モノ……というよりは人種差別とジェノサイドを扱った話になってしまっている。


何が言いたいかというと、これではロボットものやSFである必然性が全くない。
どちらかというと人種の溝を寓話的に描いたお話に見えている。
ストーリーの核心やテーマ的にはAI云々が全然活躍しないというか、あんまり関係ないんですよね。


ロボを信用しない勢力である西側の軍隊すら自爆ロボとか割と危険なやつを投入しまくってるあたりの自己矛盾もあり、「人類V.S.ロボット」という対立は殊更にぼかされているように感じた。

それがイイのかは…よくわかんないが……




あと穿った味方をするなら、西の白人はAI技術を持て余してほぼ自滅を繰り返し、東のアジア人は新技術ともうまくやって平和に暮らしてるっていうのはどういう志向のメッセージなんでしょうね。
東洋人の方がパソコン得意みたいなこと?
(まぁただのポリコレばっちり対策なんでしょうけど…)



穿った味方を全部やめた場合……それでも本作の全体的なスタンスはいまいちピンとこないと思う。

結果的には戦ってるうちの片方に肩入れしまくる話になってるわけで、戦の流れが大きく変わったっていうだけだよね。
根本的に戦争しなくて済む方向になるならピースでいいのかもしれないけど、ゲームバランスが崩れました!っていうオチは喜んで良いのかよく分からない。

本作の中でAI側が勝つ理由としても、"技術革新の不可逆性"以外の理屈がない。
ホントにただ作戦がうまくハマっただけというか。


だから結局、「新技術が出てきたけどまぁーーうまく仲良くしたらいいんじゃね?」ってだけの話になってるので、たぶん、そんなにメッセージらしいメッセージはないんでしょうね。

細かいことや難しいことは無視して、任務を受けた自爆ロボの勇姿や僧侶ロボが普段何して暮らしてるのかとかの妄想を楽しむのが正解なんだと思いますわ。
ロボヘッドと袈裟、なんか似合うね……!




ってことで、想定よりはスケールの小さい(精神的な葛藤レベルがそんなに高くなく、どっちが戦争に勝つんだっていうだけの)話だなとは思うんだけど、その割には上映時間が長い。。

2時間半くらいでしょ?前半のノリを貫いてちゃんと象徴的な神話になってるなら分かるんだけど、これだけの内容ならこんなに長い尺は要らないと思いますよ。

つまんないって言ってるんじゃなくて、作品のスタンスと実態のスケールがかみ合ってない。


コテコテB級好きはこの重厚感から何かを察して見逃すかもしれないし、逆にコアSF好きは溢れんばかりのB級感に戸惑うかもしれない。

ビジュアルがズバ抜けて素晴らしいだけに、なんか惜しい印象はどうしても残る、かな。



その意味では…冒頭のスクラップ場でのシーンはかなり良かった。
子どもを見失って狼狽える人間さながらの反応を見せるロボットを、物理的に"オフ"にして息の根を止めるも、その反応の実在感に人間側が動揺してしまうあのシーン、グッときたな。
明らかにロボットを持て余してる。
人類は既に負け始めている…とでも言われてるかのようなゾクゾクする場面でした。
あのシーン、はなまるです。



かつてないほどAIというワードが世界的なトレンドになっている中で公開する映画なので勘違いしがちだが、本作自体は、特にAI特有の何かが出てくる話ではないですね。

警鐘にもなってないし、問題提起にもなってない。
あの終わり方は何も示してはいない。

ChatGPTなり何なり、あまりにも身近にAIが浸透しており、それがどんなものかがある程度見えちゃってるが故に、なんか突飛な内容にできなかった感がある。


もうちょっと未知の技術だったからこそ、「ターミネーター」シリーズとか「ステルス」とかは、ハチャメチャデストロイAIになったんじゃないか?
人間の脳に近づいているっていうトレンドを踏まえちゃうと、なんかスゴい話にしにくい気がする。


AIって、今となっては難しい題材なのかもね。
ビジュアルはほんとに最高だったけど、内容はちょっとピンときませんでした。
ごっつぁんです。
ロッツォ國友

ロッツォ國友