ロッツォ國友

グランツーリスモのロッツォ國友のレビュー・感想・評価

グランツーリスモ(2023年製作の映画)
4.3
いいニュースだ。
誰もお前に期待してない。
気楽にやれ。


全然期待してなかったけど、めちゃくちゃおもしろかった……!!!


これはざっくり言うと

「ゲーマーがプロレーサーなんか出来るのぉ?笑」

って思われる話なんだけど、そもそもこの映画自体が

「ゲーム関連のトリッキーなニュースでエンタメ映画なんか出来るのぉ?笑」

的な、期待無し舐めプ鼻笑いテンションで見られやすいという点で奇しくも重なっており、主人公の立ち位置と本作の映画としての立ち位置は近しいところにあると言えるだろう。


スーパーマリオが燦然と輝く大成功例として記憶に新しいが、それ以外だとあまりゲーム映画ってのはピンとこない。
そもそもめんどくさいファンが多い(こら)ので、それらを黙らせるところから苦心しなくてはならない関係でハードルが高く、しかしそれでいてファンに評価されたときても興行収入がブチ上がるわけではない。


本作は所謂"ゲーム映画化作品"とは異なる文脈となるが、テキトーなサンプリングではめんどくさい連中に総叩きに遭うことだろう。
ましてグランツーリスモなぞ、ただのガチ勢しかいないはずだ。

その辺の困難に関して本作には不安になるシーンもなくはないが、溢れんばかりの「グランツーリスモ愛」「車愛」が大爆発しており、取ってつけた感がカケラもない。


何なら実話ベースということで、ゲーム映画と伝記映画を同時にやってのけており、見事な映画化と言わざるを得ない。




本作の描写において何より力が入っているのは当然「ゲーム」と「レース」の要素。

ゲームに現実の興奮が足され、
現実にゲームの凄味が足された描写に夢中にさせられる。

とにかく、車が走る姿を熱く厚く篤く捉えることに心血が注がれている。
マシンが映るシーンには1秒たりとも無駄や弛みがない。
常に、永遠にスタイリッシュだ。


カメラワークとカメラパンで目まぐるしく演出しつつ、エンジンの爆音がこれでもかと詰め込まれており最高に気持ちイイ。

引きのカット、車の前後アップのカット、ドライバーの顔のカット、ハンドルやペダルにアップするカット…が凄まじいテンポで切り替わり続けており、間伸び感は完全にない。
でありながら、置いてけぼりにもならない。

演出がうますぎる。

「トップガン マーヴェリック」にもあったような"パイロットの操作が戦闘機の挙動に直結していることが分かる"的な描写が8割増しほどに詰め込まれていて疾走感が尋常ではない。

これはカーレースファンじゃなくても100%楽しめるだろうな。
"走る"シーンの全てが最高に気持ちイイ。



そしてもう一つ重要なのが、実話ベースの人間ドラマ。
レースシーンのキレキレバチバチゴリゴリ具合と比べると…若干凡庸な印象は拭えない。が、それでいて全く無駄がないと思った。

良質な、満足感のある人間ドラマとして押さえるべきところを全て確実に押さえてくるので、序盤こそ薄く感じられたが終盤にはすっかり乗せられ、涙腺を緩ませられてしまう。

なんというか、最短最速最少のコースを見極めて、無駄のないライン取りでアガる人間ドラマになるよう構築されている感じだ。
めちゃくちゃ上手いっすよ。


これたぶん、カーレースばっかり見せると全員他人なのでどうでも良くなってしまうだろうし、人間ドラマに重きを置きすぎると何を観に来たんだ状態になってしまうだろうから、車と人間のバランスが最適でないと面白くないはずだ。
その点、本作にはそういったアンバランスさが全くなかった。
空力上無駄のないフォルムだ。


特に、友情描写と家族描写は素晴らしかったな。
何か突出したテクニックという感じではないが、十二分に感情移入して楽しめる。

枯れたおっさんレーサーとインドア青年ゲーマーの間に生まれる友情が超アツい。
二人にとってはお互いに、「うだつの上がらない日々に初めて現れた唯一の理解者」だったのだろう。
と同時に、一生残るトラウマと向き合い、それを正面から乗り越え克服していくプロットは完璧としか言いようがない。


この辺、人物や出来事の順序においてはかなり実話から変えている点もあるようだが、物語としては全くと言っていいほど文句がない。
レースと人間がストーリー的に直結し面白さを生んでいる。
アツい。


家族描写も大変良かった。
ある意味最初から敵はおらず、あくまで危険な賭けをすることに対する是非の部分で相違があった…程度なのだけど、それでも誤解や不安を乗り越えて信頼へと結んでいく展開は否応なしにアガる演出だったと言えるだろう。
「パパのチームのシール」の描写も程良い。ちょっとした小道具遣いが上手。


オーランドブルームについてはまぁ……キャラがブレてる感もあるが、リアリティ優先な言動に捉えられたので特に文句はないですかね。
なんなら「言い出しっぺ」ってことで一番重圧に苦しんでいるわけで、ポジションを固定せずアレ言ったりコレ言ったりしてしまうものなんじゃないかと。
なのでまぁ、リアルな人間っぽく描かれた分、ちょっと存在感は薄まった感はあるかも。
別に悪い点はないです。



ひとつ、ゲームプレイヤーとしてだけの勝利としていないところは、本作の極めて重要な要素だと思う。

実話ベースだからそういう方向にならないだけとも言えるが、結果的に本作は「シミュレーターを極めただけのゲーマーがそれだけでプロに勝った」という話にはなっていない、という点が良い。

ゲームから学び取った、グランツーリスモ特有のリアルシミュレーションを極めた上で、プロレーサー同等の投資と努力とメンタリティを備えた末での勝利であることがきちんと描写されている。

あくまでゲームはそのベースであり一要素なのだ。
一般的なプロとは入り口が異なるだけで、ちゃんと努力をした上での戦いであることが描かれており、誠実な印象を受けた。

シミュレータが優れているのは大前提としつつも、それを極めただけで勝てたという話ではないのは、本作のスタンスとして正しいと思う。

(近年ではグランツーリスモが優れ過ぎて、プロレーサーが普通にコース勉強ツールとして活用しているらしいので、シミュレーター上がりのレーサーがバカにされるようなシチュエーションは、今やそんなに無いかもしれない。
日本人からもグランツーリスモプレイヤーがプロデビューしてたよね。)



感想は以上なんすけど、本作を観て一番ビックリしたのは、ニール・ブロムカンプ監督作品だったこと!!!!!!!!!!
全く知らなかった!!
エンドロールで知りました!!!!!

わたくしが最も愛する映画「第9地区」の監督なんで大興奮しましたよ!!!
「エリジウム」「チャッピー」と、興収目当てとはとても言い難いキワモノB級SF路線に走っていったので心配してたんですが、ここに来てど真ん中の職人的エンタメ作品を作っているとは!!!

まぁよく考えると「第9地区」も大元は、落ち目だったXboxを支えた希望の光「HALO」シリーズを映画化する為のプロジェクトから紆余曲折あって完成した作品なので、"有名ゲームを映画化する"仕事という点では一貫しているのかもしれない。

大衆性を考えると、今作が一番ウケる内容だったんじゃないかしらね。
知らんけど。



いやーーー大変良いものが見れた。
極めて良質な、直球王道の青春成長譚でした。

車に乗るのは大好きだけど、全く詳しくはないので、レース描写に関しての真偽はよく分かんないです。
ル・マンとか、もうちょっと分かりにくいルールなんじゃないかしら。
24時間での周回数を競うから、あんな分かりやすい競り合いになるのかな………?とか?

ブロムカンプさんもけっこうテンションや情熱優先でディテールを適当にする傾向があるので、その辺は適度な距離感で楽しむのがいいんでしょうな。


うん、面白かったっす。
エンドロールの写真まで最高でしたねえ…
キャラ像と本物の写真を並べるやつ、伝記映画イチバンの見せ場だと思ってるんよね。

ごっつぁんでした。
ロッツォ國友

ロッツォ國友