ロッツォ國友

エンパイア・オブ・ライトのロッツォ國友のレビュー・感想・評価

エンパイア・オブ・ライト(2022年製作の映画)
3.6
知らなくても平気なのさ
観客にはまばゆい光だけが見えている。

映画は静止画が集まってできてる。
静止画と静止画の間は暗闇だ。
だが、1秒間に24コマの間隔で見せると…観客には動いているように見える。
暗闇を感じなくなるんだ。



暴走おばさんのおくすり手帳!!!!!!



いやーーーー極めて良質なヒューマンドラマですねえ。
良かった良かった。
いつも通りフライヤーで一目惚れして前知識ゼロで観に行ったんだけど、フライヤーの雰囲気そのままの、イメージ通りの映画として仕上がってて驚いた。
度肝を抜かれるような何か、とかは無いけど、良い意味で想像通りのものがたくさん観られて、とても満足感のある映画体験でした。



とにもかくにも素晴らしいのは画面のデザインセンスでしょ!!!
天才的すぎるよ。
構図、光量、色彩の組み合わせ、被写体そのものの角度、全てにおいてあまりにも良くデザインされ過ぎている。
驚いてしまった。こんなにたくさんの素晴らしい画面をどうやって見つけたんだろうか。

いい風景を狙って建物を作り出したのか、元々ある建物からいい風景を削り出したのか、本気で考えてしまった。凄すぎる。


光の表現が本当に良い。
光そのものに色がついているんじゃなく、照らされた空気の色が際立つような映し方。
暗い場所に光が差し込むことで目に映る美しさが、本作の映像表現のキモになっている。

映画館が一つ重要な舞台であり、モチーフになっていたけれど、まさに「暗闇で光を浮かび上がらせる」という映画の様式そのものが、本作の光の表現と重なるところがある。


また後半にかけては詩の引用がなされていたけど、これも同じと言って良いだろうね。

静止画と静止画の間を明るく埋めて映像にするように。
言葉と言葉の間を淡く埋めて詩にするのだろう。

そういった意味で、映写機と詩には、仕組みとして通ずるものがあると思った。
暗闇に淡く映し出す表現の美しさがずっと続く見事な仕上がり。
画面が本当に良かった。



映画館って場所、好きなんだよな。
小さいところも大きいところも、大抵は暖色の間接照明になってて特別感がある。
アメリカでもそうみたいだな(あの様式はアメリカから輸入したのかな)

「映画の映画」が定期的に流行ると思うんだけど、なんか従業員目線の、映画の送り手側の視点ってのはニューシネマパラダイス以来な感じがしたかも?
本作については場所とかマシンそのものよりは、「暗闇で光を映し出す」ことが大きなポイントになっていたので、ちょっとだけ角度が違うかな。



人物描写もいい。
淡いが、決して薄くない。
本作は、全体でいうと綺麗なヒューマンドラマにあたると思うんだけど、人物描写としては決して綺麗な面だけを見せることはしない、というところがミソになるだろう。

英国王やキングスマンを引退し、すっかりダメなジジイになったコリン・ファースも、ずっとクソな奴というわけではないし、主人公の暴走おばさんもずっと優しい光の善婆ムーブを叩き込み続けるわけでもない。

皆を割りかし平等に、多面的に描くことで安易な敵味方描写に落とし込まないところが、何より本作の送り手達の、人への眼差しの暖かさを感じる点だったと思う。
汚い奴と綺麗な奴が居る…っていう感じじゃなく、人の内面に綺麗なところと綺麗でないところが混在して、それでこそ人たり得るのだとでも言うようなオトナなアプローチにまとまっている。

綺麗な静止画の、瞬間瞬間のスキマにある暗闇に目を向けようって作品なわけだね。



思えば、エンパイア劇場の上階部分に係る描写も、テーマとして繋がっている面がある。

あの使われていないフロアは、綺麗な場所だが一切手入れがされておらず、埃をかぶって人には見せられない状態になっていたけれども、まさに人の"人に見せたくない内面"を象徴するような存在感になっていたと思う。

本来美しいところでもあるけど、決して整理はされてないから簡単には立ち入れなくて、しかしそれ故にこそ特別な場所、秘密の場所として機能しうる。
2人でそこに踏み入っていくこと自体が、深い関わりを示していたんじゃないかね。



映画館では必然的に、同じ部屋で2〜3時間を過ごすものだけど、互いに仲良くなるでもなく言葉を交わすでもなく、上映時間が終われば同じ時間・空間を共有するもの同士でもなくなり、やがて元通りの知らぬ他人に戻っていく。

まさにエンパイア劇場の面々も、良い瞬間も悪い瞬間も共有はしつつも、しかしそこが人生の終着点ではないから、色々な関わりを経てそれぞれの日々に帰っていくわけだね。
従業員側なんだけど、映画館という場所がもたらした機能自体は変わらなかったように思う。


着地の仕方も非常に良かったですね。
とても綺麗に収まったな。



いやぁーー淡いながらも決して浅くない、イイ塩梅の映画だったなぁーー
まじでちょうど良い。夜観て夜風にあたりながら帰るのにいい感じがする。

非常に収まりのいいヒューマンドラマでとても落ち着きました。いいね。

そしてやはり、あまりにも画面デザインが神がかってる。画造りにおいてスキがなかった。


大賞受賞系…になるのかなこれは。
もう受賞したんか?
味付けでいうとグリーンブックを思い出すかな。ビッグタイトルを受賞してそうだけど、そういう方向なのかなぁ?って内心疑問には感じるやつ。

レビュー投稿したら調べようかな。
ごっつぁんでした。
ポテトフライ食いたい。
ロッツォ國友

ロッツォ國友