ロッツォ國友

渇水のロッツォ國友のレビュー・感想・評価

渇水(2023年製作の映画)
2.8
孤独男性の、発狂!!!!!!!


はい。
まぁ、よくある普通のイケてない映画って感じで、特に面白がれるところも無く、微妙な内容ではあったんですが………でもなんか満足感もあって、決して嫌いにはなれない作品でした!!
その辺を、書いておこうと思います。



本作の特徴は何よりも「劇的じゃない」こと。

そもそも映画って、少なからず「劇的」になるじゃないですか。
劇的な人物、劇的な出来事、劇的なセリフ……日常で見かけることはないけれど、映像で観るとちょうどいい塩味になるようなやつ。
本作にはそういった"劇的さ"が、良い意味でも悪い意味でも無い。

うまくない。
気の利いた演出が全然できない。
セリフが酷い。

だから、本作は所謂"ダメな作品"の部類なんだけど、でもこのレベルの低さは、逆に作品の持つテーマ性との親和性を結果的に高めているように思えた。



本作を観て何より感じたのは
「凡人が作った、凡人の、凡人による、凡人の為の映画」
だなということ。
凡人達が作る、凡人クオリティの、凡人を主役に据えた極めて凡庸な作品。

捻くれた見方で感じ悪いと思うけど、ある意味作品としては一貫性があり、意外と嫌いじゃないなと思ったんですよね。



まずディテールについて触れます。
役者の演技がいいね!

なんだか配役が好きだなぁ。
キャラクターもいい。
どのキャラも、居そうで居ないけど実在感はある、程よい等身大感。

キャラクターごとに求められている人物像と、役者の雰囲気がよく合致してて、演技としてもそれに見合ってて良いと思いますよ。

顔つきが良いんだよなぁ。
深みなんて何もないボンクラの顔がよく演出できている。
こういうのは、変に深みを出されたら逆に合わない作風なんじゃないですかね。

何者でもない人々が主人公だから、この見え方は正解だと思う。


子役二人が本当に良かった。
ただ顔がかわいいとかそういうんじゃなく、一種の生々しさが漂う空気感が非常に良く、いい子役だなと思った。

びっくりするくらい話題になってない作品なので残念なのだが、いつかどこかで大ヒットして欲しいものだね!そういう素質があると思った。
良い子役だ。ほんとうに。


生田斗真・磯村勇斗もマジでいい。
普通程度に優しくて真っ当なんだけど、生き方も能力も考え方も凡庸でしょうもなくて、うだつが上がらない。
仕事に対して思うところも無くはないが、別にどうこうするほどの熱量はない。

そういった気の抜けた凡人を、ある意味熱演していて素晴らしい。

ま、さすがに生田斗真は何しててもなんだかんだカッコいいけどね。
平日夜に向日葵に水をやって、ダル着でタバコ吸ってるだけなのにマジかっこいい。
「男前」という役者の良さがよく出ていながら、すごく程よくそれを殺して凡人感を出している。

配役と演技については、本当にいいと思う。
おかげでギリギリ途中退出せずに済んだ。



その一方で……邦画なのでやはりというべきか、セリフはクソ of クソだ。
邦画特有の病理というか、何でも言葉で説明するクセに何が言いたいのかはよく分からない感じ、いかにもなクオリティの低さ。

言い方・言い回しが全部ダサいし、時折意味不明。

なんで、こうなるんだろうね…
作品全体の雰囲気はいいけど、何か喋るたびに台無しになるからなかなかノれなかった。

だから無声映画とかにしてセリフは全部文字だけにする方が本当は良かったかなと。
それくらいセリフが酷い。役者の読み方云々じゃなくて、そもそもの文章がゴミ。
ここは、普通に良くない。



キャラクター同士の心の交流は、かなり好きだった。
それこそが本作の全てではあるけど、人と人との間に居心地が表現されている感じがとても良かった。
だから、本当に無声映画が良かったなぁ……セリフが全部を台無しにしてる感はどうしても否めない。かも。



さて……
とは言え全体について言及すると、本作最大の問題…というより引っかかるポイントはやはり、問題意識と理解能力の低さ。
これに尽きる。
何か言っているようで何も言っていないし、実は何かを言う気概もないし、理屈も破綻してる。

本作の表現から意図を汲み取って表現するならば
「水なんて太陽や空気と同じように元から自然界に存在する、本来タダのものなのに、水道局がそれを独占して金を取ったり蛇口を塞いだりして、おかしくないですか?」
ってことが、言いたいんでしょ?

まぁ……言わんとしていることは分からなくはないけど、物事の理解力があまりにも低過ぎると思いますよ。

いい大人の発想じゃない。
まして、こんなのを水道局員が思ってるわけがなかろう。


そもそも、私たちがおうちで蛇口をひねれば出ててくるような、均一品質の清潔な水が「本来タダ」だった試しは、歴史上において一度もない。

作中でも我が国の異常に優れた上下水道システムの素晴らしさは割りかし語られてはいるけど、なんか「モブがくだらねー事言ってらぁw」みたいな演出にされている。
いやいや、答え言ってますけど……みたいな。なんでそれで分からんねん。


だからこれ、前提から完全に誤解というか勘違いなので、その先にある疑問とか問題提起が悉く的外れで幼稚にしか見えないのだ。

タダじゃないんだよ、綺麗な水は。

都会も田舎もどこでも、上下水道共に最高品質で維持されているわけでしょ。
そんな国がどれだけあるんだよって話ですよ。

他国の話をいちいち持ち出すべきとは思わないが、この感覚をなんとなくでも理解してくれるのは日本の人だけじゃないのかね?

他国で上映しても理解されないと思うよ。
何言ってんだこいつ?ってなるでしょ。


事務所で生田斗真の前の席に座ってるボンクラが、勇気を出して上司に物申すシーンもある。
「停水ばっかやってたら人の心無くなっちゃいますよ」
みたいなやつ。
頭悪いの次元じゃないだろ。

普通にドン引きしたけど、作り手達の意図としては、
「正しいことを正直に言える勇気ある若者が堕落した権力に言いくるめられた!」
みたいなシーンにしたかったんでしょう。

そういうセリフはさぁ、海や河や雨の水をそのまま飲用水や生活用水にしてる奴が言えることだよ。

絶対、上水するだろ?

それはタダとは言わないんだよ。
全然共感できないよ。
理解度が低過ぎる。



………ていうのはあるけど、その杜撰でしょうもない「問題意識」についても、何か真面目に問題提起したりアクションを起こしたりみたいなことはなく、生田斗真がキャリアを粉砕しない程度に「発狂」するだけにとどまっている。

逆にここで、とてもグッと来た。

パラドックスというほどパラドックスしておらず、仕事としてやる意義があることも明白だけど、でもなんとなく後味の悪いような後ろめたいような気持ちになる仕事は、現実にはある。
たくさんある。

というか仕事って、そもそも誰かの面倒を片付けることで成り立つ側面があるから、本作の停水レベルに露骨じゃなくても、なんとなく人から嫌がられながら自分の仕事を成り立たせてお金をもらうみたいなことは人生にいくらでもあることだ。


水道インフラを敷くのも維持するのも只事ではなく、それを格安で使える暴利を貪って、おまけに滞納しても4ヶ月は何も言わずに使わせてもらえる甘えに甘えた環境でもそれを払えない(厳密には、優先順位を勝手に下げている)ような人々に、散々通知した上で停水する……という仕事自体は真っ当すぎてアクビが出るが、とはいえ訳わからん奴らから一日中悪人扱いされてたら良い気持ちはしない。

セリフがクソ過ぎて、まるで水道局員が悪いことしてるみたいにしか表現されてないが、本来は、
「行いとして間違ってはないけど人に嫌がられることをずっとやり続ける疲れ」
みたいなものが本作では表現されている…べきなんでしょ。
知らんけど。


不条理というほどの不条理もないがやり甲斐もなく、面白くない仕事へのフラストレーションは溜まる一方で、しかし気の利いた文句も反抗も思いつかないような凡人の"問題意識"をまず描いた上で、現実にやったら派手だが映画にしては地味過ぎる「革命」を描いており、徹底して凡人そのものを表現している。


上述したようにセリフは酷いし、水の偉大さに気づいたぞ!みたいな佳境のシーンも描き方が微妙過ぎて全然カタルシスが無かったわけだけど、これぞまさしく「俺達の映画」には相違ないなと思ったわけですよ。

めちゃくちゃ歪んだ見方だけどね?

本作自体の題材も手法もメッセージも、凡人のそれそのものだ。
意図せずこうなったのは言うまでもないが、それでも表現のすべてに露ほども才能を感じられないこの作品にこそ、凡人の苦悩や怒りを表出するのに最適ではないかと思える。


ホントに全然良くない褒め方だけど、一貫性のある作品は好きだ。
本作は、外見から中身まで全部「イケてない」という点で一貫性があり、それゆえに、面白くはないが愛嬌がある。

だから、嫌いじゃないですね。



あと、続けざまにもう一点 言いがかりを言わせてもらうならば、本作を観終わった後に「プールに行きたい」「水を飲みたい」とは全然思えなかったのが、なんか普通にダメだなと思う。

そういう"渇き"を感じさせてこそでしょ?
名作って、エンドロールの後に始まるんすよ。
観終わった我々が、"渇水"してなかったらだめじゃないの?水の重さ、有り難みを感じ取れたらこの作品は成功なわけじゃん。

その点で言うと、水よりアイスの方が欲しくなる作品ではあったかな。
みんなでアイス食べるの、イイなーって思ったね。
凡人、というか庶民のささやかな幸せってことでさ。

ここで、帰りにプール行きてえ!とか水道の水を飲みてえ!!とか思わせられなかったところが、なんか微妙だなと思ったわけです。
まぁ、これは言いがかりなんだけどさ。



さて、そんなところです。
普通に完成度としてはイケてない映画だったけど、なんか憎めない愛嬌のある作品で、嫌いじゃないですね。

名前だけは、覚えておきます。
ごっつぁんでした。
ロッツォ國友

ロッツォ國友