横山ミィ子

とら男の横山ミィ子のネタバレレビュー・内容・結末

とら男(2021年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

役者の「目」が好きだ。優れた役者の目は、ときにセリフなしにこちらを射すくめる。心の中に入り込んでくる。この映画の場合、その目は演技ではなく、刑事としての経験からもたらされたものだった。

公式サイトのコメントでも「リアリティ」「ホンモノ」というキーワードが散見されるが、リアリティを持たせることは「目的」ではなく、「手段」だ。

「どうしてわかってたのに捕まえなかったんですか」「他にやりようがなかったんですか」「動いたのは私ばっかりで、とら男さんが動いたことはあったんですか」大学生・かや子のこのような言葉の数々に、「結果として真犯人を逮捕できなかった」という自責の念により、とら男は言い返すことができなかった。しかしそれまでのとら男のセリフにより、かや子の言葉があまりに酷であることが、視聴者にはわかるはずだ。「黒(犯人)は絶対に白(無罪の人)にはならないが、白(無罪の人)はさじ加減でグレーになる」「自分が犯人だったらどう動くかを考える」「ざっと3,900人のホトケさんを見送ってきた」30年の人生で、とら男がいかに実際の現場で闘ってきたか。その努力を潰したのは、警察の組織にあった闇だったと、考えることは不自然ではないだろう。それこそがリアルを用いて伝えようとした、映画のひとつのメッセージではなかったか。伊藤詩織さんの刑事告訴に対し、逮捕状が出なかった日本にあって、2007年に時効が成立した事件は決して過去の話ではないのである。

未解決事件というのはまだまだあるもので、「このままだと時効を迎えてしまいます」という被害者ご遺族の声が聞こえてくることもある。法律で定められたことではあるが、時間は止めることができないというのは残酷なものだ。かつてはオリンピック選手を育てたというスイミングスクールも、廃校し現在は解体されている。プールのふちに佇むとら男の姿からも無念さが伝わってくる。

かや子はとら男に愛想をつかしたように見えるが、彼の教えが彼女の中で生きていたのは救いだった。誰が犯人と口には出さなくとも、人を見る目に嘘はつけないものだ。とら男の元同僚は言う、「犯人には、自責の念にかられて一生過ごしてほしい」と。形式上は事件は終わっていても、周りは「わかっている」のだ。とら男の「本物の目」はそれを物語っている。若きクリエイター、村山和也監督による力作である。
横山ミィ子

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