横山ミィ子

愛しきソナの横山ミィ子のレビュー・感想・評価

愛しきソナ(2009年製作の映画)
4.0
監督のヤン・ヨンヒ氏の、北朝鮮ピョンヤンで暮らす兄たちと、その姪っ子ソナとのドキュメンタリー。この映画でまず感じたのは「街が綺麗」「マンションの生活もひどくない」ということだ。人は協力し、工夫しながら、ヨンヒ氏を歓待するためのご馳走を準備する。ソナが通う学校の子どもたちも、ヨンヒ氏がカメラを回していると集まってきて、しげしげと眺めたり、恥ずかしがったりと、私の持っている子どもたちの印象と特に変わるところはない。基本的に特にドラマはドラマとして描かれず、淡々と進んでいく。この映画で一番大きな出来事は、ヨンヒ氏の映画が理由で彼女が入国禁止になり、彼女はもうソナ、そして彼女の兄たちと会えなくなった、ということだ。家族と会えないという極めて残酷なエピソードも、年表の一行であるかのように、静かに描かれる。

ヨンヒ氏の家族は、北朝鮮にあって相当よい暮らしをしていたことと映画から推察される。そんな人々でも逃れられないのは、政府による計画的な「停電」である。ピョンヤン滞在最後の、マンションでのパーティーの場面でソナは言う、「日本に帰ってもこの停電を忘れないでください」。この台詞に思わず笑ってしまうが、おそらく現地の人々もわかっているのだ、うちの国はおかしいと。ソヴィエト時代のアニメーション映画でも、国策をネタにした場面が出てくるが、ユーモアに乗せて伝えるからといって、彼らは楽しんでいるなどと考えてはいけないのだ。苦い思い、悲しみを笑いに変えようとする、人間のいじらしさを汲み取って、私に何ができるか、そういう材料を与えてくれる映画だったと思う。
横山ミィ子

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