横山ミィ子

小犬をつれた貴婦人の横山ミィ子のネタバレレビュー・内容・結末

小犬をつれた貴婦人(1959年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

主人公の二人が出会うのはロシアの避暑地、ヤルタ。「ヤルタ会談」の場所として名前を聞いたくらいの知識だったが、ロシアによる侵略という酷い歴史を持つ土地であると、この映画をきっかけに知った。

ところでロシア文学といえば「間男の話が多い」という偏見を持つ私だが、本作品の主人公ドミートリーが恋する相手も人妻だった。「ひと夏の恋」で終わらせるつもりが、ドミートリーはモスクワに帰っても忘れられずにアンナを追いかけ、再会することになる。

恋に翻弄される不器用な男の心の動きを、演技や演出でよく表現していたと思う。ドミートリーは会食の場でピアノの演奏を頼まれて一曲披露するが、ピアノの前に置かれたロウソクに、初めてドミートリーとアンナが結ばれた夜を思い出す。その思いを抑え込むように灯を吹き消す。モスクワの街中で、アンナが連れていた犬にそっくりな犬が走るのを見つけ、思わず乗合の車から降りて追いかける。いずれもドミートリーの心の声がセリフにはなっていないながら、こちらもドミートリーに合わせて切なくなったり期待したりがっかりしたりした。

ラストでは何も解決していない。これからどうなるのか、おそらく二人にもわからない。すっきりしないまま終わることにモヤモヤしてしまう部分もあるかもしれないが、文学とは、ある状況に置かれた人間そのものを描こうという試みでもあるはずだ。見ようによってはみっともない、煮え切らない二人だが、音楽や、海辺のヤルタと雪のモスクワとの対比から忍ばれる心のありようなど、繊細な描写と結びついて、心に残る映画になっていると思う。
横山ミィ子

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