このレビューはネタバレを含みます
善意と笑顔と家族愛、というと聞こえはいいかもしれないが、全体として「私的なホームビデオ」を見ているような印象。
認知症になってから、自分がもともと女優として生きてきた、と信じきってしまった母親(原田ヒサ子)を、ひとりの女優として、女優である監督(原田美枝子)が撮影したもの。
映画作品を創るのに、メッセージとか伝えたい思いとか、そういうものは必ずしも要らないとは思う。とは言え、映画という多くの人を動かす創作にしては、あまりにひとりよがりなエピソードに終始している。
もちろんこの作品のハイライトは、ラストシーンの、「母は紛れもなく女優の目をしていた」というナレーションとともに映されるラストの原田ヒサ子氏のまなざしである。印象的ではあるが、役者の魂のこもったまなざしというものは、本来説明不要で観客の心をうつものだ。ナレーションにより、「女優の私がそういうからそうなんだ」と言いくるめられている気にもなり、説得性に欠ける。
こういうことは言いたくないが、自己満足の作品に終わっていないか。少なくとも私にとって、お金を払って、得るところの乏しい作品だった。