横山ミィ子

拝啓天皇陛下様の横山ミィ子のネタバレレビュー・内容・結末

拝啓天皇陛下様(1963年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

「みんなのシネマレビュー」というレビューサイト(jtnews.jp)を眺めていたら、あろえりーなさんという方が、「この作品の良いなと思うところは、戦争というものを主軸にして描いてるのでなく、あくまでも舞台装置として扱っているという点ですね」とおっしゃっていた(投稿日:2012.8.17)。そのとおりだと思う。いわゆる「戦争映画」「反戦映画」とは違うものだと思う。インテリの棟本(むねもと、長門裕之)と、貧しい農村生まれの山田(渥美清)とが軍隊で知り合ってから、山田が交通事故で命を落とすまでの物語。

山田は後輩から読み書きを習い、当時の人気漫画『のらくろ伍長』が読めるようになる。天涯孤独ののらくろの境遇を知り、「のらくろはわしと同じで気の毒だ」。戦争が終わるという噂が流れると、「昔はケンカして臭いメシも食った、シャバにいるよりは三度三度メシが食える軍隊にいた方がいい」と思っていた山田は、天皇陛下に戦争を終わらせないよう頼もうと、「拝啓天皇陛下様・・・」と手紙を書こうとする。棟本がびっくり仰天、陛下に物を申そうとすることは不敬罪といって重罪だぞ、と手紙を破いてしまうが、状況がわからない山田はポカンとしつつ「まあムネさんがそういうなら・・・」と納めてしまう。

渥美清の魅力的なキャラクターでコミカルに、楽しく鑑賞できるが、山田は実に不遇な身の上なのだ。軍隊しか寄るべがなく、尊敬していた陛下に助けてもらえるわけでもなかった。棟本という存在がいたから安心して観ていられたが、誰にも助けを求められない人は多かったはずだ。当時も、そして今も。名優たちの演技と、チャップリン喜劇を彷彿とさせる演出とあいまって、ぐっと心を掴まれる、野村芳太郎監督の名作である。
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