asayowai

BPM ビート・パー・ミニットのasayowaiのレビュー・感想・評価

-
現実離れした世界を描いてぼくらを驚かせるのは映画のお家芸だ。
その一方で、現実をありのまま描くこと
でぼくらを驚かせてくれる映画がある。

本作は紛れもなく後者に属する映画だ。

実在する団体、ACT UP Parisで活動した若者たちを描いた群像劇。

ACT UPとは、アクロニムで「力を解き放つAIDS連合」という意味らしい。AIDS差別への抗議、AIDS予防の啓蒙、営利を拡大しようとAIDS患者をないがしろにする製薬会社へのデモなど、その活動は多岐にわたる。

本作の監督であり、団体の元メンバーでもあるロバン・カンピヨは、ACT UPの多様性を余すことなくカメラにおさめる。

彼らのディスカッションシーンはまさにその多様性を象徴するシーンだと感じる。
ACT UPは一枚岩ではない。過激派もいれば穏健派もいる。しかし、彼らの活動方針は、全員が参加し、平等に発言権を与えられるディスカッションを通して決まる。

ここにはアメリカ映画でよく見られるような、リーダーが感動的なスピーチによって集団を先導していくようなリーダーシップはない。

熱弁をふるって訴えかける者もいれば、冷静に議論の流れをたどって解決策を見出す者もいる。ひょんなところからアイデアが生まれることもあれば、ただの大喜利大会になることもある。

この意外性に満ちた即興的なディスカッションシーンはとても見応えがあった。

本作で描かれる彼らの活動には、理解しがたい過激なものもあるだろう。
でもすべてを肯定する必要なんてない。

彼らがディスカッションでするように、共感できるときには指を鳴らし、できないときには歯擦音を鳴らせばいい。
無音のエンドロールで「沈黙=死」「行動=生」というスローガンを思い起こした。
asayowai

asayowai