文字通り“色褪せない”ミュージカルの名作。ハリウッドのように豪華絢爛なセットは作れないけど、ジャック・ドゥミとベルナール・エヴァンには類まれな色彩感覚が備わっていた。原色をふんだんに使ったセットと衣装を調和させ、陰気な雨の港町を色彩のスペクタクルへと変えてしまう。
一歩間違えれば安っぽいラブホテルになってしまいそうだけど、ルグランの上品なスコアに乗せた歌声、そしてなによりカトリーヌ・ドヌーヴの圧倒的存在感によって作品世界を洗練させてくれる。
プロット自体はどこにでもあるメロドラマだけど、あえて登場人物の心理を歌わせない顔のアップ(本作のドヌーヴはほとんど表情で演技をしないが、むしろそれが良い)のみでシーンを終わらせる抑制的なストーリーテリングが想像力を掻き立てる。また登場シーンこそ少ないものの、最小限のカットででかい仕事をするマドレーヌ。野暮ったい田舎娘と思いきや、ギイをコントロールしてしっかりものにするしたたかな女性だったことがわかる。彼女のキャラクターに深みがあるので、単なるギイとジュヌヴィエーヴの悲恋に留まらない寓話的な面白さがある。
有名なラストシーン、黒を纏ったドヌーヴが残酷なほどきれいで恐怖すら感じる。