横山ミィ子

レナードの朝の横山ミィ子のレビュー・感想・評価

レナードの朝(1990年製作の映画)
4.5
ニューヨークの慢性神経病患者専門の病院に勤めるようになった医師セイヤーが、30年来難病に苦しむレナード、同じ症状の患者たちに新薬を投与し、それによって奇跡ともいえる効果が出始めるが・・・。実話に基づく人間ドラマ。

まず、新薬の導入への経緯で重要なきっかけとなったのは、セイヤー医師の人に対するまなざしだろう。「病院と学校の構造は監獄のそれと同じ」というが、冒頭の他の医師のセリフでもあるように、「患者には水と栄養を与えるだけ」というのがそれまでの医師たちの方法であった。しかし意識がないように「見えて」も、人々は生きている。音楽に、ダンスに、食事に、喜びを見出すのだ。看護師のエレノアはレナードに語ったという、セイヤー医師は「親切で、人々を大切に思って(care about people)(*1)いると。そういう姿勢が、看護師や医師などスタッフを巻き込んでいった。

ロビン・ウィリアムスとロバート・デ・ニーロという、押しも押されぬ名優二人の演技が素晴らしい。デ・ニーロ演ずるレナードは、病気を患ったときほんの子供だった。自分の力で起き上がり、言葉が話せるようになってからの笑顔は、くったくのない少年のものであった。随所でかかる美しいピアノ曲や、食堂でのダンスシーン。心の琴線に触れる繊細な表現の数々も見事。

原題のawakening(*2)は「目を覚ます」という意味合いだが、患者たちの眠りに近い病気から「目覚める」こと、患者たちの病院での扱いのひどさや、生きることの喜びに「気づく」こと、いくつかの思いが込められているのだろう。この映画を通して、受け手もまた、生身の人間の命の重さに気づいてほしいーそんなメッセージも読み取れる。ロビン・ウィリアムスという偉大な存在を失ったことも思い出しながら。

*1 care very much for people だったそう。
*2 Awakeningsが正しく、複数形のsがついている。
(2023/2/24追記)
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