常盤しのぶ

タブロイド紙が映したドリアン・グレイの常盤しのぶのレビュー・感想・評価

4.0
シネ・ヌーヴォで鑑賞。やたら顔の良い男、ドリアン・グレイの人生を取材・連載すると思わせて、読者ウケしそうな嘘ストーリーをでっちあげてタブロイド紙の販売部数を増やそうとする新聞印刷会社という人道も道徳も倫理もクソも何もないトンデモ怪作。

世界に蔓延るタブロイド紙を束ねるマブゼ博士が見るからに悪の総帥みたいでとても素敵。肩のアンテナを伸び縮みさせる時にいちいち効果音が流れるのがかわいい。ちなみに日本代表タブロイド紙は夕刊フジ。

記事をでっちあげ、取材対象を金のなる木としか見ず、発行部数の増減ばかり気にかけ、賄賂を渡し、都合の悪いネガは握り潰し……要するに本作はメディア批判をメインに訴えている。

途中挟まる歌やオペラのシーンが妙に長い。最近の映画に慣れきっていた私にとって1シーン体感10分も流されるのは結構しんどい。オペラ等に限らず、様々なシーンが妙~~~~に長い。流石に退屈になる。

が、それと同時に、この監督の撮りたいものが何なのかなんとなくわかってきた気がして少し嬉しくもなった。他所の感想など気にせずに撮りたいもの・訴えたいものの純粋な部分を2時間半に渡って贅沢に摂取できた。映画でこういった体験は意外とできていなかったので尚の事嬉しく感じる。

もちろん他の作品にもそういった『ここは監督が撮りたかったシーンだな』と思えるシーンはあるのだが、本作のそれは他と比較して時間・密度・濃度が段違いだった。しかも出来上がった映像がどれもこれも幻想的というか前衛的というか、現代アートを2時間半かけて浴びせかけられたような感覚になる。

本作は西ドイツ製で、同監督の作品は他に2作あり、本作と合わせてベルリン三部作と呼ばれている。最近の映画になんとなくつまらなさを感じた時はこういった映画を楽しむのもわるくない。さすがに連続視聴は骨が折れると思うが、他2作も機会があればぜひ観たい。

ちなみに主役のドリアン・グレイ役を演じたヴェルーシュカはドイツ出身の女優らしい。……女優!?