りょう

波紋のりょうのレビュー・感想・評価

波紋(2023年製作の映画)
3.8
 荻上直子監督の作品をすべて観ているわけではありませんが、これまではポジティブでゆるーい描写に少しだけ苦境が訪れるパターンが心地よかったです。
 この作品は、冒頭からネガティブが全開で、それを微妙なコメディ要素で体現する筒井真理子さんの表情がばっちりハマっています。こんな脚本と演出もできる監督さんとは…、感嘆しました。
 夫が失踪していた期間は10年くらいでしょうか…、そこが後半まではっきりしないので、あの夫婦の空気感がつかみにくいです。民法の失踪宣告を利用すれば、7年以上の生死不明で死亡したことにできるし、マイホームも相続できます。自分だったらやってしまいそう…。
 さまざまな登場人物が彼女に“波紋”を寄せてきますが、拓哉の恋人である珠美のキャラクターがとても印象的です。“障がい者の心は美しい”なんていうマジョリティのバイアスを覆すカウンターパンチが炸裂しました。母親の特性を拓哉に吹きこまれたのかもしれませんが、あのセリフは強烈です。
 “波紋”の描写は、モノクロのイメージ映像などが妙に安っぽくて残念です。庭の枯山水でしっかり表現されているので、直接的な映像は必要ないと思いました。新興宗教の描写は、かなり揶揄したものでしたが、彼女の境遇や心情を表現するためには、ちょっとやり過ぎていた印象です。この作品の本筋ではないので、逆に中途半端だったと思います。
 ラストシーンの雨の描写が意味深かったです。どうにも晴天なのに本降りの雨でした。撮影の当日にどうしても曇天になってくれず、スケジュールの都合で無理やり雨のシーンにしてしまったのかと思いました。ただ、あのダンスシーンでは、雨と太陽の光が共存している必要があったはずです。いつの間にか喪服の肌襦袢まで赤くなっていて…。かなりシュールなシーンですが、この作品のエンディングにふさわしい表現でした。
 荻上直子監督の幅広い作風を堪能できたので、次回作も期待したいです。
りょう

りょう