りょう

ロスト・キング 500年越しの運命のりょうのレビュー・感想・評価

3.8
 キャッチコピーに「ひとりの主婦の情熱が…」とありましたが、主人公のフィリッパは、れっきとした労働者であって主婦ではありません。冒頭の職場のくだりは、彼女がリチャードⅢ世に共感するきっかけになるので、ここの誤解は致命的です。
 彼女が患っていた筋痛性脳脊髄炎(慢性疲労症候群)は、新型コロナウイルス感染症の後遺症としても再認識されていますが、いまだに“怠けてる”と誤解されがちな悩ましい疾患です。かといって、障がい者のような処遇でいいはずもなく、彼女の職場での不満はもっと辛辣に描いてもよかったと思います。
 個人的に日本史も世界史も学校の授業では苦手だったので、歴史上の人物にも興味ありませんが、彼ら彼女らの評価は、その当時の価値感で決定されるもののはずです。それを現代的な価値感で再評価すると、それにはいい場合と悪い場合があって、名誉を棄損しかねません。リチャードⅢ世の場合は、当時の統治の都合から意図的に悪者にされてしまったようなので、500年後にフィリッパが名誉を回復させてあげたなんて、ほとんど奇跡のような実話です。
 その奇跡を現実的な物語として映像化するために、映画の特権でリチャードⅢ世の幻影を登場させたことは、とても効果的でした。ヘタなVFXとかでスピリチュアルな要素を強調せず、さりげなく登場する彼の佇まいがとても自然でよかったです。「エッ?しゃべるの?」って思わせるタイミングも絶妙でした。
 レスター大学の面々は、表面上は協力的で善良な雰囲気ですが、最後にやっていることは醜悪な搾取で、どこの世界にも組織にも権威主義的なところがあることを痛感させられます。フィリッパの奇跡の反面で、とても現実的なオチでしたが、彼女がそこに固執しないエンディングも好印象でした。
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