りょう

午前4時にパリの夜は明けるのりょうのレビュー・感想・評価

3.4
 1984年と1988年のパリが主な舞台でした。サッカーのシーンがよく登場しますが、このころのフランスのスーパースターはミシェル・プラティニでした。小学生のときに1985年のトヨタカップを国立競技場で観戦しましたが、彼の“幻のゴール”は鮮烈な記憶です。
 パリの街並みが当時の映像とともに編集されていますが、新しく撮影されたシーンとのつながりに違和感がありません。このざらついた映像の質感が心地いいです。それは物語そのものにも共通しています。主人公のエリザベートの境遇は、乳がんや離婚という過酷なものでありながら、周囲の人々には恵まれているし、この物語には悪人らしき登場人物がほとんどいません。シャルロット・ゲンズブールは、しばらくラース・フォン・トリアー監督の作品の常連だったので、こういう等身大の役柄で安心して観られたのもよかったです。
 あまり劇的な展開もなく穏やかに時間が経過する群像劇は、とてもよくまとまったストーリーテリングです。ただ、ラジオ局の人間関係、2人の子どもたちとの生活、タルラとの交流、新しい恋人たち(2人も)とのこと…など、エリザベートをめぐる物語がたくさんあるので、その主軸が曖昧でどれも印象深いものにならなかったことが残念です。
 個人的にはラジオ局の物語を深めてほしい気分でした。エマニュアル・べアールが演じたラジオパーソナリティがとても個性的で、彼女を中心とした職場の雰囲気をもっと観てみたかったです。
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