横山ミィ子

戦場記者の横山ミィ子のレビュー・感想・評価

戦場記者(2022年製作の映画)
4.0
TBSロンドン支局の記者として、須賀川拓氏が各国の地域に出向き、見たもの・聞いたものと、その仕事に対する思いを綴るドキュメンタリー映画。

「戦場記者」とあるが、英語のサブタイトルはA Conflict Zone Reporter。「紛争地域の記者」である。「戦場」という言葉からは、私などは、第一次大戦の映画で見るような広い野原を思い浮かべてしまうのだが、実際に砲弾を受けているエリアは集合住宅でありホテルであり病院であり、紛れもなく「普通の人々が暮らす地域」である。紛争、戦争がある限りどこでも戦場になるーーそう考えるとやはり「戦場記者」がふさわしいのだろう。

この映画では、アフガニスタンで、今まさに悲惨な状況に置かれている人々も描かれる。これは私の勝手な結びつけだが、conflictとは「葛藤」の意味合いもある。ベトナム戦争やアフリカの飢餓地域で写真を撮り、公にその悲惨さを知らしめてきた写真家たちは「何故目の前の人を助けないんだ」という激しい批判にさらされることとなり、自殺する人もいた。戦場ジャーナリストの話を聞く時に、いつもそれを思い出さざるを得ない。須賀川氏も例外でなく、「相手を助けられるわけではない」「これは偽善ではないのか」という。これは先人たちに共通する葛藤なのだろう。

そんな心情の吐露の中、私にとって救いというか、まさにそれだ、と思えたのは次のような言葉だった。「僕は国際政治学や地政学などきちんと学んできたわけでないし、それらの優秀な専門家はたくさんいるから、自分としてコメントするのは難しい。ただ、自分にできるのは、彼らの研究のために現地の生の声を届けることではないか」と。

人が世界を知り、そのおかしさに気づき、よくするためには、まず材料が要るものだ。本来なら自分で確認することが必要だが、危険な地域には誰でも行けるわけではない。こうやって自分の得意分野を持ち寄ることが、社会をよくするためのひとつの手段でもあるはずだ。

最初は、観るのに勇気がいった。この映画は公開のチャンスを逃さず、映画館で観るべきか?その背中を押してくれたのは、公式サイトでの、デーブ・スペクター氏のコメントだった。映画のメッセージ、意義、そこから得られる希望。この映画のように、動員数も大事な要素になるものは、コメントにもそういう側面をできるだけ入れて頂ければ、迷う人を動かせるのではないかと思う。
横山ミィ子

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