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正欲のIKUZAGIEのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.7
結構面白かった!が、原作小説を読んでないとよく分からないかも。一応原作読んだ上での鑑賞がオススメ。
ネタバレにならない程度に少し説明すると、新垣結衣演じる桐生夏月と磯村勇斗演じる佐々木佳道は、水そのものに興奮するという異常な性的嗜好を持つ人間という設定で、映画の冒頭、佐々木佳道(磯村勇斗)が、会社の食堂でコップに水を注いでいるというよりは溢れさせているシーンは、「昼間っからエロいことしてるんじゃねー!(笑)」ということになります。また、桐生夏月(新垣結衣)が仕事から帰宅してすぐ、水の動画(彼女にとってのエロ動画)を見る姿は「若いからお盛んなんですね(笑)」ということで、原作を読んでる人なら彼らの行動が理解できるが、未読の方にはどうだろう。ちなみにコメディではない。彼らは異端ではあるが他人に危害を加えるような異常人格の類いでもない。要は変わり者の話であります。
映画と原作小説では多少ながら違いがあった。時間の限られた映画では仕方ないが、登場人物に対してはやや説明不足だったり、人物描写に若干の違和感があったりもした。それでも配役や演技は総じて素晴らしかった。映画も小説も結末は同じだが、映画の方では多様性についてひとつの解答に導くような結末にはなっていたように思う。たぶん寺井啓喜(稲垣吾郎)と桐生夏月(新垣結衣)の明確な対比でそう感じたのだろう。
映画のハイライトの一つに、男性にトラウマを持つ女子大生・神戸八重子とイケメンで桐生たちと同じ性癖を持つ諸橋大也との興味深い口論がある。意見の相違はあるが、双方の意見はどちらも正しいのであって、お互いを理解し認め合うことが困難な場合、双方の意見を知ることで完結する多様性があるとも言える。ちなみにこの時の役者さん達の演技は素晴らしく良かった。
私は多様性に対して正しい解答は分からないが、少なくとも誰もが命の保証をされている社会が多様性の最大の目的だということには同意する。とはいえ、理想は簡単に言葉で表現できるが現実は難しいのであって、自己防衛するために新しいことを理解することは重要でありながら、理解できないものを排除するのもまた自己防衛だとも思う。例えば、ある会社員が「私は女王様の命令しか聞きたくない変態マゾ男としての人権を主張し、今後、上司の命令は一切従わない!」とカミングアウトしたら、その会社員は普通にクビだろうが、それも多様性としてその主張を許容するのだろうか…。んー?…わしなんか違くない?
まあ要するに、登場する人物達に感情移入せずに映画を観ると、すごく面白いです!声をあげるくらいならそっとしておいて欲しいと世間を拒絶するマイノリティ、「多様性だ!共生社会だ!」と声高らかに語り「私はマイノリティを理解している」という自己陶酔的な理想を一方的に押し付けるマイノリティの代弁者、常識だから正しいと信じて疑わないマジョリティ、自分はマイノリティ側かもしれないと悩むマジョリティ、それぞれがそれぞれの立場でお互いを悪くいうのは簡単だが、それは多様性の本質からは外れるだろう。多様性とはどうあるべきか、自分は正しいと信じる欲求“正欲”をどの方向に向けるべきなのか…考え出すと頭破裂するので、結論は分からない!という事で、映画を観てどう捉えるかは、それこそ多様性の中で自由に考えたら良いと思う。ひとつの明確な結論として、原作者の朝井リョウは天才小説家だ!ということにおそらく異論はないだろう。映画も小説もどちらも面白いので興味ある方は是非。
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