Miller

パワー・オブ・ザ・ドッグのMillerのネタバレレビュー・内容・結末

パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021年製作の映画)
-

このレビューはネタバレを含みます

「パワー・オブ・ザ・ドッグ」と「パワー・オブ・ザ・ドッグ ジェーン・カンピオンが語る舞台裏」を含めた感想です。


「剣と犬の力から私の魂を解放したまえ」

牧場経営をするフィルは男性主義者で、弟ジョージが未亡人のローズと結婚し、その結婚に関して気に食わないフィルは、ローズとその子供のピーターに対して苛烈な扱いをしていく。


主人公フィルは男らしさを過剰に強調し、周囲の男らしさとは反するものを排除していく。
物語が進むにつれ、フィルの男らしさは過去に愛したブロンコ・ヘンリーに起因するものとわかる。
フィルはブロンコに憧れ、友情以上の絆を持っていた。
フィルは自分の中の男性への愛を隠すため、男らしさを過剰に追求し、男らしさと対極にいながら世界に平然と存在しているピーターを憎み、女性蔑視の対象としてピーターの母ローズが獲物になる。
フィルは世界をシニカルな見方でしか見ることが出来ず、過剰な男らしさの追求は人の弱みに対する加虐性に繋がる。

フィルは自分にとっての聖地に入ってきたピーターに対して、接し方を変える。

フィルとピーターの関係性の変化について、監督の言葉では次のようにある。
「関係性に変化が生じる
あの聖地で怒りをあらわにしたからね
秘めていた感情をさらけ出したのよ」

その後フィルはピーターとの会話の中で、ピーターの中にブロンコヘンリーと同じ感性を見出し、ピーターへの親愛を深めていく。



以下、ラストに関するネタバレ含みます。



ピーターはフィルに気がある振りをし、フィルに炭疽病の皮を触れさせフィルを亡き者にする。
フィルが舞台から去り、ローズがジョージとキスする場面を見たピーターは、振り返りほくそ笑む。
物語の冒頭はピーターの
「父が死んだとき僕は母の幸せだけを願った
 僕が母を守らなければ 誰が守る?」
という言葉で始まり、物語はピーターの笑みで終わる。
この物語は、現代よりも人間関係がより密接した時代の、他者の剣の力や犬の力と闘い抜き、自身の中の剣の力や犬の力と闘い抜こうとするピーターの物語だったことに気が付く。


「パワー・オブ・ザ・ドッグ ジェーン・カンピオンが語る舞台裏」の最後にカンピオン監督はこのように語る。
「残るものは痛みと愛
人が求めるものはそれぞれ違うけれど
あらゆることに障害物はない
唯一の問題はいかに上手くできるか」

一風変わった西部の復讐劇であり、迫害を受けないために自分を誤魔化し他者に迫害を続けた者と、迫害を受けても他者や自身と闘い抜いた者の堂々たる人間ドラマになっていた。
Miller

Miller