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THE FIRST SLAM DUNKのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

THE FIRST SLAM DUNK(2022年製作の映画)
5.0
原作未読。万人が読んでる観てる知ってる作品に全く触れてないことがあって「スラムダンク」もそうだった。他にやることがあるなんて言いながらおれは何をやってきた?

気になったのはTVなどでチラ見した本編のカット、キャラクターたちの「動き」だ。こんなの観たことない。単純に「あーモーションキャプチャーね」とはならない精度の高さと自然さ、手描きマンガとアニメーションとCGの高次元の化学反応。観ないといけない…という内圧は高まった。

次いで「観に行った」と熱く語る職場の同僚がいた。彼自身は原作の愛読者を自称していたが「原作知らなくてもイケるわ」と誰かに話しているのを小耳に挟んだ。行くしかない。原作から読んでいる熱い層が厚くそこにいて、その感覚をちょっとでも知ろうじゃないか。単なる映画じゃない「世代」を体感するのだ。

行ってみてワンカット目から引き込まれた。どうやって作画してるんだろう。実写とかアニメとかCGとか言う区分けなんてもう意味を持たない。自分が描きたい物語をどう描くかの最適解を探した結果の画がそこにある。見れば沖縄の風や波の画も、冬の湘南の寂しいボタ雪の画も、自分の感覚を励起して「そこにいさせる」。

観る側を「そこにいさせる」最高潮はバスケの対戦シーン。実写ではカットを割りながら、ひどい時は一動作ずつ割りながら撮り続けないといけない。けれどこの映画はプレーが流れている。観る側は確実に「湘北vs山王」がぶつかり合うコートの中にいて、選手たちが入り乱れる中に一緒に放り込まれている。

観る側の感覚はその中で励起され、励起された感覚が登場人物の感情と自分自身の感情を同調させる。「あの時確かこうだったな」という、誰もが経験してきた「憧れ」「期待」「悔恨」「絶望」「虚無」「再起」…なんて感情が引き出され、スクリーンの登場人物たちの感情に重なっていく。

画が感覚を励起し、励起された感覚が感情を増幅する。驚くべきは、その連鎖がワンカットも途切れないのだ。作る側は「この技法がそれを起こす」ことを見越していたんだろうか?

そしてこの物語は「人生の普遍」をしっかりと編み込んである。弱い自分に立ち向かうこと。好きなものを好きでい続けること。それがかなり難しいこと。好きでい続けたって叶わないことがあること。大事な仲間にも最高の瞬間にも、色々試してやってみて紆余曲折と失敗を繰り返さないと出会えないこと。直感を信じることが大事だと言うこと。

シンプルなものって美しい。大事なものってシンプルだ。そのシンプルさを表現するために、どれほどの試行錯誤がこの映画の制作の中で行われたんだろう。スポーツフィクションは「筋書きのないドラマ」である現実のスポーツを超えられないと言う。けれど、この映画は映画そのものとしてそこにあって、本物のスポーツと並べて競う必要もない。そしてこの映画を見れば誰もがバスケを好きになってしまう。すごい。

これを「バイブス」って言うんだろう。観た後に、体の中に細かくて熱い振動が満ちる。今関心を持っていること全てに対して、冷静さと情熱と愉しむ心を持って全力で取り組もうと素直に思わせてくれる。そんな映画ってなかなか無い。

原作読もう。きっと大事なマンガだ。
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