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カラオケ行こ!のdaisukeookaのレビュー・感想・評価

カラオケ行こ!(2024年製作の映画)
4.5
原作未読。というか、あるのを知らなかった。音痴のヤクザが合唱部の中学生男子とカラオケに行って歌を教えてもらう。そんな一言でまとめられる話だから、企画一発のオリジナル脚本だと思ってたのだ。

ヤクザどもがカラオケで連続して持ち歌を披露するシーンの居たたまれなさは素晴らしい。きっと撮ってる最中はキャストどころかスタッフ側も誰も笑ってないだろう。アホを真剣にやる。あの「居たたまれなさ」がとても大事なのだ。優れた物語は主人公をいじめ抜き、優れたコメディは観客のケツを痒くする。

だいたいこういうバディモノって、バディのそれぞれに課題があって、バディで絡んで一つの目的に向かうことでそれぞれの課題が少しずつ解決に向かう、なんて筋立てだったりする。そして、互いにちょっと「成長」したりするのだ。

そういうのが全く無い。中学生男子の聡実(齋藤潤)は合唱コンクールで3位に甘んじ、あとは引退記念の合唱祭という競技では無いお祭りがあるだけ。ヤクザの狂児(綾野剛)の課題も、組長の誕生日のカラオケなだけで、周りのヤクザがあれだけ下手なら最下位は免れられるだろう。だから、各々にシリアスな課題が待ち受けているようには、あまり見えない。

意外と、課題なんてそういう看板が貼ってあるモノじゃなくて、日常に薄くずーっと続いてるものなのかもしれない。
①聡実が同期の和田(後聖人)と副部長の中川(八木美樹)と揉める。それを狂児が遠くから見つめて、気づかれたら手を振る。
②聡実が狂児の異変を知って、ヤクザのカラオケ会場に駆けつける。組長(北村一輝)が聡実に相対する。
いずれも、その瞬間の自分にとってはなかなかの一大事だけれど、①のケースは狂児が、②のケースは組長が、その一大事を気持ち遠めのポジションから見下ろしているわけだ。そんな揉め事は治まる。過ぎ去る。大丈夫だ、と。その様子を観客席で自分が見下ろしているわけで、メタ視点が確立している。この映画のポイントは、ここかもしれない。

中学生がヤクザと頻繁に会っているのに、親も教師も気づかなければ、警察だって介入してこないし、部活の面々だって気にしてるようでも無い。ヤクザはヤクザで、抗争やシノギを仕掛かっているようにも見えない。狂児と聡実の関係をわざわざ外部から揺さぶる何者も登場しないのだ。

訳のわかってない奴が、ただスジを波打たせるために、主要人物の関係外からトラブルメイカーとして登場するってのが、おれは本当に好きじゃない。物語のドライブは、ただシンプルに狂児と聡実に内在してる。それが潔くて好きだ。そこをそうしているから、狂児はともかく聡実に内在するあの年頃ならではのモヤった感が際立つ。あの頃の自分と重ねて、大事に観てしまう。

外力を排されたところでメタ視点が確立しているからこそ、この映画は、大した危機も起こらないのに何故か観る側を引き込む。その上で、ユルくも提示されたタスク(カラオケ大会での最下位脱出・合唱祭の成功)はほったらかしのまま。映画は自身で提示したゴールを軽々と越えて、揉め事もモヤモヤも過去に置き去りにして前進する。

なにも仕上がってないけど、時間だけは過ぎている。まあそうかもしれないけど、その時間の中でイイ人間同士が出来ていれば、それでいいんじゃないの。と言っているような、まさに屋上での日向ぼっこのような、素敵な映画だ。

おれが観に行った劇場でパンフレット完売だったのにはビビったな…。
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