daisukeooka

PERFECT DAYSのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

PERFECT DAYS(2023年製作の映画)
5.0
ヴェンダースが撮った映画はまるで、東京の寡黙なトイレ掃除人・平山さん(役所広司)の日常を追ったドキュメンタリー。平山さんは役所広司が演じている役でなくて「平山さん」て人がそこにいるようにしか見えない。彼が聞く音・彼が見る光景は、誰もが触れたことがあるようなものだけど、それらは周到な準備の元に撮られて仕上げられている。

「そのまま」を徹底して「作り込んで」ある。
矛盾した作業を徹底してやりおおせている。
そのおかげで、自分たちの日常がいかにかけがえないかが沁みてくる。
映画が「現実の大事さ」を増幅している。
それが映画の役目なんじゃないかと感じた。

平山さんが仕事に向かう車の中で聞く、カセットテープのルー・リードやヴァン・モリソン。いつどんなシチュエーションで、平山さんはこの曲に初めて出会ったんだろう。南側の部屋に並べてある楓の鉢たち。なんで育てようと思ったんだろう。一瞬そんな風に知りたくなるんだけど、そんなことより「カセットテープと平山さん」「楓と平山さん」てな感じで「いまそこにある平山さん」自体が強いから、それで良くなってしまう。映画って時間のメディアなはずだけど、この映画は「その瞬間」の大事さを伝えてる。

たいていの映画も物語も演技も、架空の何かを「盛り込んで」伝えてくる。それで観る側をどこかに連れてって楽しませてくれる。一方この映画は盛らずにそぎ落とす。平山さんの背景や歴史を語らず、語らせない。中盤で平山さんの姪や妹が出てくる。出てきてくれて良い、その方が自然だろう。でも、彼女らさえも平山さんの背景や歴史を「ちらっと想像させてみる」くらいのことしかしていない。映画の全てが「いまの平山さん」を見せるために集中している。

「こんどはこんど。いまはいま」と平山さんは言う。姪に向けた曖昧な言葉のように思えるけど、二重の意味をはらんでいる。約束なんて時間が経てば曖昧にほどけてしまうもので、確かなものは「いまこの瞬間」にしかない。おれは彼がそう言ってると受け取った。もちろん解釈なんて観た人それぞれで良い。そんな曖昧な間隙が面白さを醸し出す。言葉にならない何か、書き記すことの出来ない何かが映画の中に溢れている。

映画は画で語る。だから映画なんだと思う。そのシンプルな務めは常人にはとても難しい。この映画はそれをやりおおせている。

平山さんが帰りに車を運転しながら、思い出し笑いしながら思い出して泣く。泣いて笑う。一人で運転することが多いからめっちゃ共感できるけど、ああいうことってある。だから、この世界には平山さんみたいな人がいっぱいいて、そんな人たちがトイレを掃除したり、下水道や電線を整備したり、品物の箱詰めをしたりしながら、互いの日々を支えあってくれているんだし、おれもあなたも、そんな中の一員だ。メリークリスマス。全ての戦争や迫害や虐待が止みますように。
daisukeooka

daisukeooka