幽斎

僕の巡査の幽斎のレビュー・感想・評価

僕の巡査(2022年製作の映画)
3.8
【Amazonスタジオ作品シリーズ】原題「My Policeman」私の警察官、「の」が重要。イギリスのワン・ダイレクションHarry Styles主演。AmazonPrimeで0円鑑賞。

Harry Stylesはイギリスを代表するアイコン、ソロへ移行しても人気は衰えず、寧ろ爆上がりでオオタニさんの様に、イタリア語で煩い虫と言う意味のパパラッチに追い廻される。世界で最も稼げる歌姫Taylor Swiftとの交際は有名だが、レビュー済「ドント・ウォーリー・ダーリン」公私混同Olivia Wilde監督との本気モードも話題に。しかし、Harryがツアーで多忙な為、破局が報じられた。ファンの皆さん、良かったですね(笑)。

私のマエストロ、Christopher Nolan監督「ダンケルク」サラッと評価されたが「エターナルズ」「ドント・ウォーリー・ダーリン」制作が前後するが本作と、地に足を付けたキャリア。同じイギリスのアイコンDavid Bowieと比較される事も多いが、彼のステージのQueer的パフォーマンスは、ファンの間ではお馴染み、LGBTQを支持するムーブメントを発信。イギリス文化を敬愛する私も、彼の俳優の顔を好意的に受け止めてる。

が、京都人と同じ「いけず」なイギリス人は彼を「Queer Baiting」偽装クイア、同性愛でも無いのに、性的指向を仄めかし、ファンの注目を集めるテクニック。つまり、マーケティングとしてLGBTQを利用してるだけと、鋭い批判を受けた。英国の場合「貴方の性的趣向はどの性?」ダイレクトに問い質す風潮も有り、彼自身は「レッテルを張る事に興味は無い」否定も肯定もしない。本作の彼の役はLGBTQのG、Gayの警官(笑)。

「Pick up Chestnuts from the Fire」火中の栗を拾う。自分の利益に為らないのに危険を犯す例えだが、英国では「猿に煽てられた猫が囲炉の栗を拾って大火傷」と言う逸話に変わるので、少しニュアンスは異なるが、彼がGayを選んだのも、コンプラ的な役柄をする事で、演者としての姿を見て欲しいと言う深謀遠慮も感じた。アイドル俳優が、しょうもない作品に出演して評価を下げる、邦画では日常茶飯事だが、LGBTQを単なる消費としてのエンタメでは無く、必要とされるジャンルだと、もっと評価されて良い。

Queerと言えばHarryの共演は当初はLily Jamesだが、制作途中でEmma Corrinにチェンジ。彼女はX-Gender、男女の何れにも属さない性自認を公言、宇多田ヒカルと同じNon-Binary。共演のDavid Dawsonはレビュー済「オールド・ナイブス」出演、彼の演技は一見の価値有り。王室の血を引くRupert Everettが出演するとイギリス映画を見てる満足感(笑)。脇を固めるGina McKeeとLinus Roache、違いの分かるキャストの配役。配信映画とは思えないセンスの良さ。注意点は女性ファンには眼福かもしれないが、ソレなりのシーンは「しっかり」有るので、Gayに偏見の有る方は観るべきでは無い。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

1950年代のイギリスは同性愛に対する偏見は凄まじく、キャストの個性とは裏腹なノスタルジアに展開。イギリスは同性愛、特にGayには早くから理解が有り、未だ国を二分する騒動を巻き起こす、アメリカとは対照的なLGBTQ先進国。ですが、流石に1950年代は男性同士の如何なる性行為も違法、禁固刑に罰せられる。イントロダクションは「同性愛が禁じられた」ソンな生温いモノでは無い。私はEXクリスチャンですが、歴史を遡れば、男性同士がセックスしただけで処刑。悲痛を伴う描き方に為らざる負えない。

なぜソウ為ったのかと言えば、一般論では「戦後」。イギリスはドイツ、日本、イタリアの枢軸国に第二次世界大戦で勝利したが、社会の様式が変化し異性との結び付きを強める規範が生まれ、婚姻法も施行された時期と重なる。同性愛者は多くが検挙され刑務所行き。HarryとDavid Dawsonも同じ境遇、2人で夜の街を歩くだけで後ろ指を刺される。彼らは女性を混ぜる事で問題解決を謀る、ソコでEmma Corrinの出番。だが、彼女は2人の関係を見抜いて、間接的に警察に通報する悪手。後悔先に立たずとは此の事。3人の関係は完全に崩壊。しかし、秀逸なのは本作は此処からが本番なのだ。

時は移り1990年代。人権侵害は個人から社会へと移り、2024年の価値観では分かり難い点も有るが、蟠りを解消したい、人生をリセットしたい行為に時代も感じる。懸念はキャストに惹かれ、と言っても99%はHarry目当てだろうが(笑)。令和のZ世代に向けた物語は、ハッピーエンドのディズニー的なお花畑では無いので、邦題通りの爽やかさを期待するとチッとも面白くないと思う。批評家もZ世代と同じ意見で、一言で言えば脚本が起伏に欠けてフラット過ぎると言う論評がメタスコアの大勢を占めた。

原作はイギリスの女性作家Bethan Robertsの代表作「My Policeman」。2012年刊行、アイリッシュ・タイムズ紙の年間ベストに選ばれたベストセラー小説の映画化。同性愛がタブーの時代、愛し合う男性達と妻を描く美しくも哀しいラブストーリー。日本は二見文庫の文庫本が有るが、表紙がスタイリッシュで、2年前に発売された時に本屋界隈で話題に。興味の有る方はアマゾン繋がりでポチッと(笑)。鑑賞後に読了済。

原作は「妻」と言う視点優勢で、眩しく見えるトムの姿と対照的な冷淡な言動が際立つが、映画も原作通りに演出がセンチメンタリズムな方が良いと思う。ドロドロのとんこつスープの様に煮込まれた、3人のキャラクターの深掘りが時間的に足りない点を除けば、純粋に良作と言える。私的にはOld Marionを演じたGina McKeeのラストシーンに幸アレ!と祈りたい気分。Harry Styles目当てでも観てね(笑)。

ジャンル的には需要は無いかもだが、だからこそアマゾン映画。創る事にも意義は有る。
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