幽斎

Pearl パールの幽斎のレビュー・感想・評価

Pearl パール(2022年製作の映画)
4.6
恒例のシリーズ時系列
2022年 4.6 X レビュー済、舞台は1979年、史上最高齢の殺人鬼登場
2022年 4.6 Pearl 本作、舞台は1918年
2024年 MaXXXine 2024年7月5日北米公開予定

インディペンデントの雄「A24」初のシリーズ3部作の2作目は、稀代のシリアルキラーの始まりを描く。京都のミニシアター、出町座で鑑賞。

前作もニュージーランドで撮影、COVIDで2週間ホテルに缶詰めにされたTi West監督は主演Mia Gothに「パールのキャラクターは絶対にウケるから君のキャリアにも素晴らしい未来が待ってる」説得。Miaと共同でホテルの部屋を隔てオンラインで脚本は完成。京都の劇場では前作のエンドロール後に本作の予告編も流れた。前作が「悪魔のいけにえ」なら、本作は「メリー・ポピンズ」。白黒で撮影予定がA24に「配信で白黒映画なんて誰も見ない」却下、ソコで真逆のVictor Fleming監督「オズの魔法使」美しいテクニカラーへ変貌、ジキル博士とハイド氏の様な世界観に変更。

クラシカルな映像を盛り上げるのが、ミュージカルのストロングポイント「劇伴」。最近のホラーはデスメタルに浸食され魂が籠る音楽も激減、生の楽器を使ったオーケストレーションは絢爛豪華。秀逸なのはオゾましい惨劇を違和感なく描き切った事。私は狂気の最終形態は「ジョーカー」と思うが、ソノ元ネタは「キング・オブ・コメディ」(お笑いじゃない方)ご存じだろうか?。キンコメは「成りたい者に成れない無念」ジョーカーもパールも同情と言う名の感情移入を誘導するが、キンコメの名匠Martin Scorsese監督が「私は夢中に為り心を掻き乱された」本作を絶賛。鬱映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」現代に蘇らせた、のが私のファーストインプレッション。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

鵝鳥の串刺しを見せて一気に「X エックス」世界観を思い出させる見事な幕開け。前作の流れが「鰐」繋がる上手いシークエンス。忘れた頃に帰ってくる夫。戦争で悲惨な目に遭ったのに、家は更に地獄絵図と言う、サラリーマンの会社と妻の待つ家と同じ構図。レトリックはミュージカルのお手本「スタア誕生」的な世界観。ディズニーのお花畑にカツを入れる前作と同じ「Porno」。前作は騎乗位、本作はトウモロコシ畑で自慰に深ける奥床しさ。劇場で監禁スリラーをモチーフと思いながら観たがソレは「何がジェーンに起ったか?」だと納得。監督って色んな映画を観てるね(笑)。

「女性が性に目覚める」=「狂気の幕開け」的なシンボライズは下より古典的で「キャリー」等、ホラーではテンプレだが、秀逸なのは単なる狂気では無くパールは女性としての自我を受け止めるスタンドアローン。異常者=病気と言うレッテル貼りの今までのホラーと違い、LGBTQやQueerと言ったマイノリティへの視点、スラッシャーでは現代のコンプライアンスに生き残れない実情も投影。私の性の対象は女性ですが、パールの虚ろなアイデンティティに寄り添うレビューを心掛けてます←お前、ハワードか?(笑)。

ミステリー専門の私らしい考察をするなら、お聞きしますが何故パールはソロダンサーでは無く、コールダンサーを目指したのか?。彼女は母親譲りの(気付きました?)サイコパスですが、自己顕示欲を満たすならソロが目立つ。しかし、横並びの集団だからこそ、メインが目立つ承認欲求は満たされる。他者との比較が隠れ蓑と為り「抑圧に依る快楽」集団でも存在感を失わない欲求、自由を求める彼女の本性で有ると看破した。

【ネタバレ】作品の最深部の考察に移ります、自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

母について詳細は明らかにされないが伏線を回収するなら、母こそサイコパスで夫が働けなく為り貧困に落ちた鬱屈が、パールを抑圧する原動力に。私は生粋の京都人で仕事でよく東京へ行きますが、東京で暮らしたいと思った事は只の一度も無い。人間は「劣る環境に居る自分に価値を見出す」動物、私なら武家の出自、パールなら父親の存在が「枷」だと思う。母はサイコパスらしく上手く利用。パールと言う名は真珠、自分とは違う無垢な女性に育って欲しいと言う願いは、自分自身の育て方で道を誤る。

父の容体は推察ですがスペイン風邪に依るインフルエンザ脳症。薬がモルヒネですから半身不随の症状も長い。人間の心理は常に抑圧と衝動の天秤計り、ソレは貴方も例外では無い。秀逸なのはスリラーなら介護は父親、夫の閉塞感は想像を絶する。母はパールの内に秘めた自分と同じサイコが表れるのを恐れて抑圧。しかし、リミッターが解き放たれ「パール王朝」誕生、他人を殺したらワニに喰わせても、親は餓死させる。ソノ不文律こそ本作のテリフィック。

本作で一番怖かったのは何ですか?。99%の方はパールと答えるでしょうが私の考察は異なります。スリラー的に言えば真犯人は夫のハワード「X エックス」鑑賞済ならお分かりの通り、あの年齢まで添い遂げる「偏愛」こそ究極のホラーで或る。パールの豹変を見ても尚、ハワードの献身とは「良心の呵責」。彼が出征せず父の看護に当たり農場を手伝ってれば状況は変わった。彼の贖罪が「X エックス」繋がる点を鑑みれば、前作よりも遥かに完成度は高い。ソコまで見抜ければ貴方もスリラーの免許皆伝と言えるだろう。

彼女の顔が夢に出そうな、最後の笑顔も印象的。ハワードの隠された謎も誠に興味深い。
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