幽斎

おやすみ オポチュニティの幽斎のレビュー・感想・評価

おやすみ オポチュニティ(2022年製作の映画)
4.6
【Amazonスタジオ作品シリーズ】原題「Good Night Oppy」おやすみ、オッピー。「彼女」が長きに渡り火星の映像を送り続けたドキュメンタリー。AmazonPrimeで0円鑑賞。

どうも、先週の「ミリオン・マイルズ・アウェイ」続いて本作は火星探査車。Oppy、アメリカの子供用バランスボールの名称。本名Mars Exploration Rover B。オッピーはNASAの職員が呼んだ愛称。彼女の通信が15年後に途絶えたと聞くと、感情豊かな方は、ソレだけで泣いちゃうかも(笑)。彼女の貢献がNASAのチームメイトとして、バディとして、家族として、遠く離れた地球から愛された証とも言える。

オポチュニティは姉妹のスピリットと共に、2003年に打ち上げ。スピリットも2010年3月に通信の途絶まで探査。名前の由来はNASAが主催した学生コンテストで最優秀賞の9歳の女の子が命名、だから、オッピー(笑)。なぜロシアやアメリカ、中国まで火星探査に熱心なのか。ソレは地球に人が住めなく為った時、真っ先に移住の候補に成るのが火星。レビュー済「第三の選択」本当にフェイク・ドキュメンタリーだろうか?。

私は子供の頃から父親の影響でソニーが好きでしたが、よく聞くソニータイマーは今まで発動した事はない(笑)。アメリカで機械が壊れる時期をService Lifeと言うが、日本人なら「テレビの寿命ですね」人の命と同じ感覚で話す。オポチュニティの寿命は3ヵ月、トイレの爽やかサワデー並み。15年使える家電と言えば電子レンジとか冷蔵庫なら在り得るかも。約60倍も過酷な条件で耐え凌いだ、正に奇跡の物語。

アマゾンが監督に指名したRyan White。「わたしは金正男を殺してない」有名かも知れないが「ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判」LGBTQの先駆け。「アラバマ州対ブリタニー・スミス 正当防衛法とは何か」正当防衛を認め難いアメリカ社会を描いた実録と幅広いキャリアを誇るので、本作の優しい語り口も実に秀逸。

Amazonスタジオ製作だが、Steven Spielbergが設立したAmblin Entertainmentが携わり、George Lucasが設立したIndustrial Light & Magicが視覚効果を担当。名優Angela Bassettの落ち着いたトーンのナレーションも印象的。北米では劇場公開され喝采を浴びたが、日本では配信のみ。本作は劇場の方が圧倒的に没入感が有る、貴方も観れば分かる。私のレビューでは珍しく家族全員で楽しめると思います(笑)。

【ネタバレ】物語の核心に触れる考察へ移ります。自己責任でご覧下さい【閲覧注意!】

本作はディスカバリーチャンネルの様な科学検証に基づくサイエンス映画では全く有りません(笑)。「プロジェクトX」的なアメリカでは珍しい感傷的な描き方、徹底的に「ロボット愛」貫き通す。荒廃した地球に取り残されたロボット「ウォーリー」ディズニーで見てない(笑)。火星ならMatt Damon主演「オデッセイ」中国が世界を救う映画。中国は2020年「天問1号」火星探査機の打ち上げに成功。ロシアも再探査に意欲的。

アメリカの火星探査機はフライバイと呼ばれる写真を撮るマリナー4号。オービターと呼ばれる周回軌道のバイキング1号。ランダーと呼ばれる着陸船のマーズ パスファインダー。ローバーと呼ばれる自律型ロボットのオポチュニティ。現在は後輩のマーズ サイエンス ラボラトリー、愛称キュリオシティが人類居住の可能性を調査。更にパーサヴィアランスは、宇宙初の航空機インジェニュイティも搭載。火星を飛ぶ事に成功した。

本作を観て一番驚いたと言うか呆れたのは、NASAの失敗の原因が「ヤード ポンド法」。日本人にはサッパリですが、ホントにアメリカで最大の老害ルール。私もアメリカで就労経験が有りますが、「メートル法」ですよ世界の国際基準は。発祥元のイギリスもメートル法なのに、アメリカが頑なにヤード ポンド法に拘るのは、何でやろ?。

本作を観るまで知りませんでしたが、NASAからオポチュニティの様な探査機を直接コントロールしてると思った。しかし、ローバーは自律航法で、管制センターから探査機のプログラムをアップデート、落語の寄席で見る二人羽織的なシステム。火星から電波が飛ぶのに10分掛かるタイムラグの為。つまり、オポチュニティを地球から見守るしかない。地球と火星の距離は8145万キロメートル。京都から東京までは370キロメートル。

なぜ余命90日かと言えば先輩のマーズ パスファインダーが、砂埃でバッテリーの充電が出来ず通信が途絶えたので、オポチュニティも同等と思われたが、想定外の嬉しい誤算が発生、ソレが竜巻の様な砂嵐。なんだ、余計に不味いじゃないかと思うが、惑星規模なので、ソーラーパネルに堆積した砂埃を綺麗に吹き飛ばした。まるで100円コイン洗車機の様に(笑)。15年後、機械の老化と共に寿命を全うし、NASAの職員に看取られた。

ISS国際宇宙ステーションへNASAが目覚ましを流す事は有名、日本人の宇宙飛行士には「マツケンサンバ」(笑)。宇宙空間では地球時間が乏しくなるからで、探査車にも目覚ましソングが有るとは正にヒューマンティック。ポチュニティの通信が途絶えたらWham!の「Wake Me Up Before You Go-Go」。寿命を迎えた時はBillie Holidayの「I’ll Be Seeing You」。曲を流す科学的根拠は全く有りませんが、ソレは当事者にしか分らない価値観、他人に理解を求める必要も無いでしょう。本作は子供に読み聞かせする絵本の様な温もりを感じる、心に染みる作品だった。

私達が何時か火星に辿り着いた時、彼女は「待ってたよ!」笑顔で迎えてくれるだろう。
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