メモ魔

アイの歌声を聴かせてのメモ魔のレビュー・感想・評価

アイの歌声を聴かせて(2021年製作の映画)
3.9
人は理解できない事象に都合のいい解釈を構築する。
この作品で語られた人知の及ばないAIの行動も、命令から派生した[感情]に似た何かも、これから研究が進んでいくにつれ根拠と結論が結びつき解明されてしまうだろう。悲しい事にアイが見せてくれた感情に似たなにかも、0と1、論理演算からなる結論に過ぎないと結論が出てしまうに違いない。
だから今。AIが起こした奇跡としてこの映画を捉える事ができるのは今。この時代を生きる人間だけだ。
AIの可能性が生活に実体験として顕在化しつつある今、この時代にこの映画に巡り会えたことに感謝。

ミュージカルとAIを融合した映像作品は自分にとって人生初の対面だった。
人の感情なんてのはバグだらけで、AIには到底数式で解く事はできないだろう。それでも、理解はできなくても、人の心に訴えかけることはできる。その手段としてこの作品ではミュージカルが採用された。
というかAIが人の感情を理解できないのと同様に、人間同士もまた自分以外の感情なんてものは到底理解できない。だから言語があり、音楽があるのだ。この作品からはAIが音楽に触れることで人間性をぐっと押し上げられる、そんな可能性を感じた。

んでもってこの作品の1番良いところだけど。
土屋太鳳のlead your partner
のシーンが1番好きだった!!!!
ミュージカルのシーンで1番重要なのは見てる側がどれだけ感情をその音楽に乗せられるか。要は感情移入できるか。だと思うんだけど、それが全面に押し出された良いシーンだった。
もう座りながら足ばたつかせてニコニコしながら一緒に踊りたくなるぐらい。そんな引き込みがこのシーンにはあった。

以下気になったシーン。

・ごっちゃん
この話にはごっちゃんと呼ばれる何でも80点。そつなくこなすキャラクターがいる。
そんなキャラクターがこう言う。
[俺はなんでもある程度できちゃうんだ。でもある程度まで。いつも2位か3位。お前が羨ましいよ。]
、、、人はないものねだりだと強く思った。人は有り余る好奇心のあまり自分が達成しているものよりも未達成なものにばかり目を向ける。
何をやっても80点を出せるやつは何で合計点で自分を見ないのか。
100点1個以外が全部0点のやつはなんで100点の自分を見てあげないのか。
周りと比べて尖っている部分が必ずしも周りから評価されるとは限らない。でも周りと違う部分は自分だけの特権であり個性だ。それを愛してあげられるのは自分だけなんだから。誰が何と言おうとそうやって尖った自分こそが誰にも代えられない自分自身だと。そう思ってあげたい。

・主人公さとみのセリフ
[時間は解決してくれない。傷口が固まるだけ]
このセリフも良かった。固まっても確かにそこにある傷口を、自分の中に秘めているさとみだからこそ出たセリフだと思う。やはり過去に辛い経験をしてる人間しか人に優しくなれない。

・意外と見返さないのに写真を撮る理由
AIが写真を撮る理由について作中で問いかけるシーンがある。人は忘れるから写真に残そうとするけど、AIは忘れないから問題ないよねって。だから私は写真を撮る必要はないよねって。
確かにそうだけどさ、多分違うくて。だって結局忘れちゃうから写真に残しておこうよなんて言っても結局見返さない写真がいくつあることか。笑
多分写真に残す理由ってのは。写真を残そうとするその姿勢にこそ意味があると思うんだ。
あなたと、あなたたちと一緒にいる時間を私はずっと忘れたくないと。そうお互いに伝える行為として写真を撮るってのは有効な手段なのかもしれない。
この人は自分といるこの瞬間を大切にしてくれているんだなと。そう感じる事ができるから。

・機械のことを友達と呼ぶAIシオン
シオンは[友達とは一緒にいると幸せな人のこと]とみんなから教わることになる。
そこからシオンは身の回りにあるAIを[友達]と呼ぶようになるんだけど、それでも人間のことは決して友達って呼ばないんだよな。
これって人間が人間のことを友達と呼ぶのに対して、AIのことを友達と呼ばないのと似てる気がする。シオンはシステムのどこかで、
[さとみと自分が友達になるより、さとみは人間同士で友達になった方が幸せ]
そう考えたんだろうな。AIに友達を作って欲しいって思ったら自分も人間を紹介するんじゃ無くてAIを紹介する気がする。

[総評]
3.9点
2020年代の作品がそれ以外と比べて自分の心に響きやすいのは、監督が見聞きし生活してきた時代背景が自分と似ているからなんだと思う。それこそ今の学生が悩んでる事柄が、当時の自分と近しいというのも大きい。過去の自分を作品に重ねて感情移入することができる。
この作品は清い心を持ちながら、それ故に周りから遠い目で見られてしまった主人公の前に新しい風が吹く話だ。
自分にとっての新しい風はなんだっただろうか。
そうやって自分だったらどうか、、、と考えさせてくれる作品が2020年代の作品には多い。主人公と背景が似てるからだ。

さて、
今日も、元気に頑張るぞ、おー!
メモ魔

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