メモ魔

レ・ミゼラブルのメモ魔のレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2012年製作の映画)
3.9
人それぞれが心に秘める正義がぶつかる壮絶な時代。
その中で確かに育まれた愛情のバトン。
環境に恵まれずとも、時代に恵まれずとも、現代に引き継がれた愛情はその昔も確かに存在したと。確かにそう思わせてくれる。そんな作品。

映画の最初から最後まで。
思い返せばセリフは殆どなかった。音楽と歌詞だけでストーリーを進めることのテンポ感とセリフに感情を乗せやすい部分に魅力を感じた。
特に考えさせられたシーンは二つ。

・刑事ジャベールが自殺するシーン
ここは考えさせられた。
ジャベールは牢獄で生まれた過去を持つ。
必要以上に法律を重んじ、その法律こそが正義だと信じる姿勢はこの過去が関係しているに違いない。
慈悲や思いやりで法律を曲げられた経験をした両親を持ったのかもしれない。そんな両親の元に生まれた子供はこう考えたのか
[慈悲も愛情も、他人のそれに耳を傾けてはいけない。絶対的法とルールだけが人を平等に裁けるんだ]と。
だからか。普通の人間なら慈悲で罪人を許してしまいそうになるシーンでも、ジャベールは頑なに法律を重んじる。
そんな刑事ジャベールだが、自分が長年追いかけていた囚人ジャン・バルジャンに命を救われることになる。
ここでジャベールの心が折れてしまった。
ジャベールは法律を遵守しつつも、心のどこかで
[自分の行いは正義に反する物だ]
と悟っていたのかもしれない。だから、そんな自分が裁いてきた(もしかすると善人かもしれなかった)罪人にいつ恨まれ殺されても悔いはないと。そう考えていたんだろう。
そんな中で罪人にあろうことか命を救われてしまった。
ジャベールの中で自分の正義が揺らぐ。
自分が信じてきた法律で裁こうと長年追ってきた人間は、慈悲により自分の命を救った。
正義が人の命を救う手段であったなら、自分の信じた法律のどこに正義があったのか。
自分が信じてきた一本の筋が捻じ曲がってしまった瞬間だったんだと思う。
今まで寄りかかってきた、信じてきた物が一瞬で正義から悪に転換した時。
自分のしてきたら行いが悪にどっぷり浸かったものだと知る。
人はそんな状況に追い詰められることで逃げ道を探す。何も考えなくて良くなる。贖罪にもなる方法を。自殺だ。
ジャベールはそうして身を投じたのだろうか。
自分にはそう見えた。

・ジャン・バルジャンが召されるシーン
このシーンも良かった。
人が一生を生きる内に受けられる、苦しみと悲しみの量はいかほどか。
ジャン・バルジャンは想像し難い苦難を一生に背負い、その中で愛情を注ぐ喜びを知ってきた。
人が他人に優しくなれるのは、自分がその他人よりも苦しい過去を経験した時だけだ。ジャン・バルジャンはその経験から、人一倍の優しさをもって娘ファンティーヌを育てることになる。
そんな優しさと贖罪の意識が混在した愛情はファンティーヌにどう移るか。
贖罪の意識からファンティーヌを育てる決意をしたことが本人にバレないよう、10年以上もの間自分が今までに犯した罪について明かさなかったのかもしれない。
いつも正しくあろうとしたジャン・バルジャンが、最後の最後、死に際で初めて心から神の赦しが貰えたと思えた。そんなシーンだった。ジャン・バルジャンにとって死別とは悲しいものであり、人生からの解放であり、そして神の赦しだったのかもしれない。最後、ジャン・バルジャンが召される瞬間の優しい口角がそれを表現していたように思う。

[総評]
ミュージカルだけでストーリーが構成されていく映画は初めてみたかもしれない。
キャッツですら少量セリフがあった。
やはり普段見ている映画とテンポが違うために違和感を感じるが、それでも音楽でしか表現できない感情の部分を視聴者へ共感させる手段としてミュージカルはもってこいだと感じた。
娘息子がフランス革命あたりを世界史で勉強し始めたら見せてあげたい作品。
フランス革命後も人民の苦しみは続いたが、その苦しみのなかで育まれた愛情は確かに現代に引き継がれているのだと。
メモ魔

メモ魔