メモ魔

ハケンアニメ!のメモ魔のレビュー・感想・評価

ハケンアニメ!(2022年製作の映画)
4.1
辛く苦しかった過去に宛ててアニメを作る。
それが誰かの心に届いて、いつか現実を生き抜く活力になってくれるなら。
それがアニメの存在意義だ。

これを教えてくれる作品だと思った。
以下この作品で心が動いたシーンを抜粋。

【リア充共が現実にデートだセックスだ励んでる横で。
俺は一生童貞だったらどうしようって。
不安で夜も眠れない中、アニメキャラでオナニーして青春時代過ごしてきたんですよ。
[一般的な]奴らは不幸で可哀想って思うだろうけど。
だけど。草薙素子やベルダンディを知ってる[一般的じゃない]俺の人生を、不幸だなんて誰にも言わせない。】
言わせてたまるか。俺だけの大切な時間だ。辛く苦い過去を生き抜く糧としてアニメに助けられた。逃げ道じゃない。自分からアニメに飛び込んだんだ。勝手な妄想で俺の幸せに踏み込むな。哀れみの目を向けるな。お前らの言う不幸な経験の上にしか、今の自分は在り得ないんだから。

【魔法はないけど魔法を超える力をアニメは持っている】
魔法なんて都合のいいものなんてこの世には存在しないけど。こんな糞ったれな現実を生き抜く為に必要な活力を与えてくれる。それがアニメだ。今を生きる人間に必要なのは現実逃避させてくれる魔法や夢じゃない。しみったれた現実に生きる糞みたいな自分の中からでも、湧き出る心の躍動が内側から飛び出す感覚を思い出させてくれる。
それがアニメの持つ力だ。

【プロデューサーが本気なら、私たちはもっと本気にならないと。リアル以外の場所も、豊かにするのが私たちの役目ですから。】
取りまとめる人間が作品に寄せる愛情は制作陣とは別のものだ。
作品の質より優先して、スムーズに作品が世に流れ収益が上がる事を念頭に置く。
そう思ってたんだ。
でも、そう思ってたプロデューサーが、あそこまで本気なら。この作品にはそれだけの価値がある。作る人間の熱量は、それ以上じゃないといけない。
職人としてのプライドがこのシーンに現れていて良かった。小野花梨が仕事に向ける熱意を感じだ。

【自分が客寄せだってことは分かってます。それなら日本一の客寄せになってやる。】
自分に与えられた仕事は、自分が評価してほしい部分とは別のベクトルにあるかもしれない。
それでも、作品が良い方向に向かっていくなら。自分に課された仕事は自分にしかできない事なんだから。できる限りのことをやってみるしかないじゃんか。
そんなメッセージをこのシーンから感じた。
人の努力に目を向けるのは難しい。どうしても結果や実力のものさしを使ってしまいがちだ。
しかし人の心を動かすのは、地道で泥をすすりながらでも手に入れたいと渇望するような。そんなどす黒い努力が背景にある演技だ。この声優にはその才能があった。
技術が追いついていなくても、仕事に対する、そして作品に対する真摯な姿勢が1番輝いていた。

【あいつ、瞳ちゃんや作品を食いもんにすることしか考えてないよ。】
【、、食い物にするってんなら、ちゃんと食えるもん作れよあんたたちも。】
マネージャーがプロデューサーの文句を垂れてる時に監督が反論したシーン。
プロデューサーは作品が成功するために必死だ。その方向性が作品の質が落ちて売り上げが上がるというものでも構いやしない。
でも成功しない、売り上げもない。そんな作品を作った監督はどうなる。次に繋がるのか。プロデューサーは売り上げだけ考えていたようで、実のところ作品を1番考えてたんだ。監督が次の舞台でも監督として職をまっとうできるように。
仕事をする上で重要なことを学んだ。
【売るのに全力
良い作品を作るのにも全力
やり方は違っても、目標は違っても、全力のやつらが作る作品には味が出る】

【昔の自分みたいな子供達に届くアニメを作りたい。でしたっけ。
だったら躊躇うことはない。】
【どうしてそれを、、】
【自分で言ってたじゃないですか。】
このシーン良かった。今まで厳しく監督に接してきたプロデューサー。
監督はその厳しさのあまり、自分はプロデューサーに名前も覚えてもらえないような無名監督だ。って言った直後のこのシーン。
名前を覚えられてないどころじゃない。監督の一言一句を逃さず聞いて、その目標に1番近い道をいつだって照らしてくれてた。プロデューサーが監督のファーストファンだったわけだ。
あつい想いはどこかで誰かに届いている。その想いが形になる時、いつだってその手助けに駆けつけてくれる人がいる。

【あなたには才能がある。ハケンを取ると堂々と口にするその姿勢が私は大好きです。】
【なるべく多くを吸収してください。退社するまでの間、スポンサーとの渡り合い方も面倒な数字のことも。なるべく多くのことを教えます。】
このシーンも良かった。
誰も好き好んで嫌われ役に徹するわけじゃない。
その人を思えば思うほどに指南としての適役とは悪役なのだ。
今まで厳しくされてきた監督が、プロデューサーの真意に触れる優しくあついシーンだった。

【俺たちは、、、俺たちは、監督の頭の中を形にするためにここに来てる。】
辛いからやらない。時間が無いからできない。
そうやって諦めるために自分達制作がいるんじゃ無い。
俺らは、監督の思う作品を完成させるためにここに来てるんだ。
そんな熱い想いがこのセリフに込められていた。本当に好きなシーン。
監督が作品に込める熱意を認めたからこそ、自分の技術をこの作品にぶち込みたいと。そう感じだんだと思う。
この映画は何度でも教えてくれる。
[自分の本気は、必ず誰かの本気に火をつける。作品の味は、そんな本気から生まれる。]
本物の作品は製作陣の心すら変える。
作品が輝くのは、作る側の心が変わってからだ。制作陣が作成時に感じだ心の躍動が、視聴者に伝わった時。その時に初めて作品は人の心を動かす。

泥吸ってでも、這いつくばってでも、世に出したいものがある。その活力の背景には、いつだってアニメがあった。そう思わせてくれる。どこか懐かしい作品だった。

4.0点

アニメ好きには非常にお勧めしたい。
だって草薙素子でオナニーする監督の映画とか見たすぎるやん笑
メモ魔

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