daisukeooka

メイド・イン・バングラデシュのdaisukeookaのレビュー・感想・評価

3.5
岩波ホールがもうすぐ閉館する。アート系シアターの極北と言って良い、知的好奇心を刺激するラインナップは素晴らしかった。派手に当たりはしない、でもきっと見ておくべきなんだと思わせる、世界の片隅から大きな課題を照射するような作品群を抱えていた。そこが閉じてしまう。

物語はシンプル。アパレルで布地を縫う女性工員シムが酷い待遇に耐えかねて労組を作るために挑む。それだけだ。けれど、克明に撮られた生活のディテールと、彼女たちを囲む社会の蒙昧さが重くて遣り切れない。だいたいこの手の映画は「それでも元気にがんばる!」みたいなエンタメ演出があったりするがそれも無い。ないからこそ重く伝わる。

とにかく「地面が汚い」。ゴミがそこら中に積もっている、金属片やガラス片さえも散らかっている、排水しきれず濡れたまま溜まったままの水もほったらかし。そこをサンダルもしくはほぼ裸足で歩く人々。危なっかしくてしょうがない。誰もその様子をマシにしようとしていないから、この汚れと混沌もずっとそのまま。綺麗な方が良いことは分かり切っているのに。

それと同じで、女性たちの待遇もほったらかしのままだ。同じ境遇の女たちでつるむのが精いっぱいで、男たちは女たちを都合よく顎で使うのみ、自分たちよりも「上」にいる女たちでさえ、ここぞという時にハシゴを外す。そして役人たちは怠惰を極めている。

根本的な原因は貧困と嫉妬なんだろうか。自分より若くて勢いのある女たちに真っ当なことを言われてムカつくから相手にしない、ただそれだけのことが数十万人分・何十年間も行われてきているんじゃないか。それって結局、この日本で女性たち若者たちが前の世代に押さえつけられてきているのと変わらないんじゃないか。宗教や文化の違いはあっても、根本的にその辺にあんまり差が無いように思う。そしてそんな社会であればあるほど弱って貧しくなっていっているような気がして仕方がない。

だいたいこの手の映画って「貧困の真実を!」みたいなスローガンを秘めていて左翼っぽくて「だから豊かな者が救え施せ」なんてオネダリに満ちているような印象があった。でももうそんなこと言っていられない。このままだとこの日本が、この映画で描かれているバングラディシュのようにあと数十年でなってしまうかもしれないのだ。若者や女性を押さえつける「おっさん高齢者しか信用できない旧弊な政治と社会」の所為で。

物語はラストでやっと動き出す。けれど結局「孤立無援」が際立ったにすぎない。物質的には満たされているおれたちは、社会の現状をひっくり返すためにどれだけ必死になれるんだろう。かなり焦る。
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