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マリグナント 狂暴な悪夢のYNのネタバレレビュー・内容・結末

マリグナント 狂暴な悪夢(2021年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

面白くないことはない、決して面白くないことはないんだが、絶賛の風潮が納得いかない。
そんなに褒められると、つい文句を言ってしまう。
ホラーに、ジェームズ・ワンに対する期待値がそんなに低くていいのか? と。
そういう作品だ。

反発心抜きの感想を一言で言うなら、「トラディショナルな題材を今っぽい映像で撮り、お得意の人情話で仕上げたジェームズ・ワンらしい小作品」だ。
とにかく、ストーリーに新味が一切ない。古典だ。バニシングツインものと呼ぶのだろうか。もう1人の人格による犯行。しかもそれがアバンタイトルとオープニングクレジットからネタバレしている(クレジットの同じ文字が分裂する演出のあからさまなこと!)。
見ている間に既存の複数の作品が脳裏をチラついた。記憶しているところだと「リング0」や「スプリット」など。どこかで見たような話や展開だという印象が強かった。

もちろん、ストーリーの斬新さだけが映画の醍醐味ではない。そのほかに際立った部分があれば充分傑作たりうる。
……わたしには本作の際立った部分を見出すことができなかった。
やたら謳われている「新感覚」は、おそらく主人公マディソンの周囲の風景が溶けるように変化するあの演出を指しているのではないかと思うが(それ以外に思い当たらない)、確かに1回目は「おっ」とは思うものの、何度も繰り返すほどの面白みは感じられなかった。あとは分かりきっているガブリエルの正体が明かされるのをただじっと待つ時間……そこそこゴア描写もあるので退屈こそしないが、かといってそのゴア表現も取り立てて心に残らない(2018年「サスペリア」のダンス殺戮を見よ! あれくらいの独自性と新規性が欲しい)。

オチもこじんまりと、血のつながらない妹との絆を確かめ合って終わる。家族愛で終わりたがるのはジェームズ・ワンらしいと感じるが、ホラーとしてはかなり面白くない部類に入る。ただ、そこをゴリ押ししているのが作家性だと思うので、そこについて不満はない。
ラストショットにわざとらしく映し出される電灯とジーーーーーという電子音は、「インセプション」の終わり方を意識したものだというのはかなり好意的な解釈だろうか。

総じて、「ジェームズ・ワンならこれくらい撮って当たり前」であり、「今のホラー映画にはもっとずっと面白いものを期待していいだろう」と思わされる出来だった。
「ヘレディタリー」の、「サスペリア(2018)」の、「透明人間(2019)」の衝撃が、本作にはない。
前評判から期待しすぎていたこちらが悪い部分は大いにあるだろうが、それにしても、贔屓目に見ても本作は「普通に面白い」にとどまる作品ではあろう。

最後に良い点も書いておく。
全体を通して、ジャンプスケアがとても少なかった。これはかなり良いポイントだ。
来るぞ来るぞ、の演出は多用されるが、その後に大きい物音などはほぼ来ない。ガブリエルの出現も、やや遠いところにスッと立っているなどが多く、「驚かせる」ことなしに恐怖演出が可能だということを本作は示している。

もう一点、マディソンの妹シドニーのキャラクターがとても良かった。
登場した瞬間から全開の「いいやつ」オーラ。普通なら中盤で「実は姉に悪感情があり……」となりそうなほど真っ直ぐで明るい。でもジェームズ・ワンは彼女を最後までそのままに描く。
シドニーが一人で廃病院に乗り込むシーンも、特に何もなく無事に帰ってきたりする。これも普通だったらなんらかの被害に遭わせると思うのだが。
完全に恐怖演出とは切れた存在として「善人」を投入する、これがジェームズ・ワンの作家性だと思う。人間に対してあまりにもポジティブ。なんでホラー撮ってるんですかね?
こういう光の存在を最後まで一貫して光にしちゃうの、やっぱり相対的に恐怖は薄れるのでホラー的にはあまりメリットないと思うが、それでも作家がそれをやりたくてやっているのがわかるのでこの点は心地よく受け取れた。
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