KANA

雨月物語のKANAのレビュー・感想・評価

雨月物語(1953年製作の映画)
4.2

『西鶴一代女』がすごくよかった溝口健二、二口目に選んだのは超有名な本作。

戦国時代、貧しい百姓の源十郎と藤兵衛一家は自分たちで作った陶器を城下町に売りに行く。
陶器は飛ぶように売れ、どんどんカネの亡者になっていく源十郎。
下剋上の機運に血が騒ぐ藤兵衛は憧れだった侍になり、源十郎は陶器を買いに来た高貴な魔性の女、若狭にたぶらかされ、2人とも妻の待つ家のことは忘れてしまう。
そして物語は妖しくも哀しい結末へ向かって一気に突き進む。

モノクロで表現した圧倒的な幽玄美
欲に目が眩む人間の愚かさ

…黒澤明の『蜘蛛巣城』ともすごくオーバーラップして好みだった。

アートとして、まず源十郎たちが舟で湖水を進むシーンにやられる。
霧が充満したミステリアスな世界。
(『ザ・フォッグ』といい『蜘蛛巣城』といい、霧の演出はお気に入り)
舟を動かさず、クレーンでゆっくり移動するカメラワークで臨場感と船上の人の不安感も巧みに表現していて素晴らしい。

若狭(京マチ子)と源十郎が戯れるシークエンスは夢か現か、境目がわからないような陶酔感。
長回しやロングショットが捉える若狭の動きと表情は能の様式に従っていて、たおやか&はんなりとした艶めかしさが感じられる。
背後に流れる、若狭の亡き父による朗々とした謡も手伝って神秘性がさらに増す。
能面のメイクって少し前まで全くよさがわからずシュールだとしか思わなかったけれどw、話し方や動き、つまり雰囲気だけでこんなに妖艶さを演出できるんだと改めて感心させられた。

ラスト近く、村に舞い戻った源十郎が妻の宮木を探して家を一周するカメラワークの滑らかさも見事。
がらんどうな空間のロングテイクの末にポッと現れた母性溢れる宮木に、あなたも妖怪?フェイク?と、観てて源十郎以上に不安が拭えなくなる。
…我に返れど時すでに遅し。

本作のテーマだという神秘や妖美や幽艶などの芸術性は遺憾なく発揮されてるし、
一時的な高揚感に依存してしまいがちな人間(生物)のサガも情けないほどあらわに。
そして戦国時代に生きた人々の生活、苦しみ、悲しみが全編を通して生々しく伝わってくる。迫ってくるという感じ。
それはきっと鬼監督の下で頑張った演者たちの苦労の賜物でもありそう。
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