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TITANE/チタンのKANAのレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
3.8

ジャケットの感じからベッソンぽいイメージを抱いていたけど、、いやいや思いっきりクローネンバーグ寄りだ。

幼少時に交通事故に遭い、頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれたアレクシア(アガト・ルセル)。
それ以来、車に対して異常なほどの執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになってしまう。
大人になり自身の犯した罪により行き場を失った彼女は、何年も行方不明となっている青年になりすまし、その父親である消防士ヴァンサン(ヴァンサン・ランドン)のもとに現れる・・

チタン内蔵で車フェチに
邪魔者は惨殺
雲隠れするためにいきなり何の絡みもない人物に変身
クルマとの子を妊娠
共に暮らすようになるヴァンサンもどこか歪んでいる

プロット的に安易というか突拍子もないというか…なんだけど、エキセントリックさを無理矢理にでも狙ってるような気がする。
モラルに飼い馴らされた一般大衆の裏をかくかのように。

クルマとのセックスシーンは論理も倫理も超えた次元にある前衛エロティックアート。
個人的に不思議と変態には感じず酔えた。
似たようなシチュエーションは『クラッシュ』や『悪の法則』でも描かれていたけど、こんな風に魅了されることはなかったなぁ。

そんなアガト・ルセルの怪演ぶりは、ヴァンサンの息子に化けてからとのギャップでも顕著。
無言で、挙動不審で、ハングリーな眼差しで。
乳房や妊婦としてのお腹をを四六時中サラシで締め付けてるのは女性からするとかなりのフラストレーション!
いっそ女性性を露わにして屈強でステキな体躯のヴァンサンと男女の仲になっちゃえばいいのにと何度思ったか。

バイオレンス描写のエグさも本作の特徴。
銃でサラリとでなく鋭利なかんざしなどでの殺害、変わるための顔面強打、自ら堕胎の試み…
どれも痛すぎて直視できない。

極め付けは出産シーン。
血ならぬチタンを流しながら、まさかちっちゃいクルマ産んじゃうの!?と、ドキドキw
もうSFといってもいいのでは?

段々と、気がふれてるのはアレクシアでなくヴァンサンのほうだと思えてきた。
いや、血の繋がりや性別、果ては有機物/無機物の概念からも逸脱した心は真の愛ともいえるのかも。
似てるけど違う
だけど同じ匂い
…アレクシアに対してもベイビーに対しても。

左脳の思考なんて吹っ飛ぶエッジーなアートには違いないけれど、倒錯を超えた所に温もりのある哲学もほのかに嗅ぎ取れるような、不思議な魅力のある作品。
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