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シン・ウルトラマンのdaisukeookaのネタバレレビュー・内容・結末

シン・ウルトラマン(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「シン・ゴジラ」の庵野さんと樋口さんがウルトラマンをリブートする、その名も「シン・ウルトラマン」となれば、どうしても「シン・ゴジラ」の「巨災対」や業界一枚岩でゴジラを迎え撃つために結束したあの感じを期待してしまう。実際、その思い込みが強すぎて肩透かしを食ったかもしれない。それがこの映画の長所でもあり弱点でもある。やっぱり「シン・ゴジラ」は熱かった。一方「シン・ウルトラマン」は似ているようでかなり違った映画になっていた。その違いは「怪獣映画」と「ファースト・コンタクト映画」の違いなのだ。「怪獣」と「ファースト・コンタクト」は何が違うんだろう? それは話が通じないか、通じる(余地がある)か、だ。

怪獣も宇宙人も、誰がいつ最初に思いついたのかは判らないが、僕らが生まれた頃には概念としては既にあった。それは「絵空事」とされながらも、思いのほか数多くの人々の心をとらえて離さなかった。怪獣も、宇宙人(映画内では「外星人」)も、何を求めて人類に会いに来るんだろう? 人類を敵と見て滅ぼしに来るのか。駆除しに来るのか。そして救いに来るのか。その渦中にいて、人類は…最前線にいる「巨災対」「禍特対」以外の人々は(政府要人たちも含めて)あまりにも、自分たちのことしか見えていない。そのあたりは「シン・ゴジラ」よりも本作の方がさらに「愚かさ」を印象強く描けている。優れた映画は、観る側を外星人や怪獣の側に置くことさえやってのけるのだ。

結局はそんな深いコアに思考は辿り着くんだけど、そこに至るまでの描写は、オリジナルへのリスペクトを現代最高の映像技術で表現していて、まさに ’Fun to the Eyes’ 目で見ているだけで楽しい。少々霞が入ったような怪獣ファイトシーンは、YouTube時代の画質や実際の災害報道の画質に慣れた目には馴染んで映る。クリアなハリウッド型のCGとはまた違った質感が好みだ。一方、最大の「兵器」が現れる地球外縁の宇宙の光景は、やけに透徹していて涼やかで、これもハリウッドが描く汚しタップリのスペースクラフトなどとは違ってクリーンでクリアだ。このクリアさがまたたまらない。濁った温かさ、透徹した涼やかさ、両方が一本の映画に共存していて、特撮もアニメも実写も経験してきた日本映画界の粋が集まっていると実感できる。

星人たちやエピソードはオリジナルから選び抜かれていて、組み合わせも申し分ない。実際、オリジナルも本質的には異星人vs人類の物語だったわけだ。本編では外星人たちの会話の方が、人類たちの会話よりも洞察に満ちていた。一方で人類側はどうだっただろう? 比較して申し訳ないが、会話の面では「シン・ゴジラ」の厚さ(熱さ)には及ばなかったかもしれない。何よりウルトラマンと融合する前の神永新二(斎藤工)がどんな人間だったのかがほとんど判らない。序盤で猛スピードで解説されているだけなので「禍特対」がどれだけの歴史があるのかもイマイチ掴めない、なので田村(西島秀俊)滝(有岡大貴)船縁(早見あかり)と神永が急ごしらえのチグハグチームなのか、それとも幾分の実績と相互理解を伴ったナイスチームになっているのかが判然としない。「ウルトラマン」が「人類を好きになった」とのことだが「ここでこういうことがあったから好きになったんだよね」という根拠が弱く見えてしまう。その分「巨災対」の方はもっと強かった。

重ねていうと、とくに「禍特対」の面々の喋りっぷりと仕草がとにかくアニメ型。早口で説明過多。序盤で判ったけどこれは狙いだ。浅見(長澤まさみ)の「気合い入れていくわよ!」と一声あげては自らの尻をパンと叩く仕草も「検査をたらい回しの上…(中略)二度の屈辱!」とPCの前で頭を抱えて顔を顰める仕草も、まるでミサトさんだ。そして本人たちもそれを楽しんで演じているんじゃないかと感じる。こんな芝居、ここでしかできない。「検査」の原因になってしまった話題の事件にしてもそうだ。自分が世間からどう見られていて、それを肝から受け止められている役者でないとあの場面は乗り切れない。ありがたい。観る側にとっては眼福でしかない。作ってみたいものを映画の中に作った。見てみたいと思ったものを映画の中で見れた。それで良いのだ。

とくに特撮ファンでも映画マニアでもない、歌謡曲好きの普通の女性であるパートナーが「面白かったね」と素直に言っていたということは、そういう仕上がりだったんだろう。素直に目で見て愉しくて、その奥は人類への愛と洞察に満ちている。

それにしても、オリジナルには思いを馳せてしまう。あの物語と世界観を「ゼロから」生み出すなんて途方もない仕事だ。それを求め、それを許した社会とか組織がまた素晴らしい。今自分が属している組織は、かつてそれをモノにしていたはずなのに、今やその気概など見る影もない。ちょっと距離をとって自分で試してみるしかない。
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