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リングのYNのレビュー・感想・評価

リング(1998年製作の映画)
5.0
以前も星5でレビューしていたが、今回初めて映画館で鑑賞したため、新たにレビューし直す。

リングはわたしにとって初めてのホラーだった。雛が最初に見た成鳥を親と思うように、わたしにとってはこれが指標にして最高、それは今後も変わらないだろう。

しかし、繰り返し見た本作も、劇場で見ることでまた違った表情が見られた。

まずはその作りについて。非常に抑制の効いた演出で、今からすれば「地味」という印象さえ受ける。思っている以上に霊現象が起こらず、画面に映るのはほぼ全て「現実」だ。
ただ浅川の中で「不安」や「疑念」が増殖していく様を、特に音響を効果的に使い巧みに表現している(自宅の鑑賞で聞き漏らしている音のなんと多いこと!)。

ストーリーの構成はほとんどミステリー、謎解きである。わたしはこれまで、謎解きを進めるのは高山だと思い込んでいたのだが(キーとなるのは高山ではあるが)、改めて見ると、浅川の細かい動きはきっちりと検証のためのそれとして機能していた。
主人公2人が2人とも理知的に、今ある手がかりから謎を解明していく映画というのは、ミステリ映画でもそうないのではないか?

(高山の超常的な能力で得た情報もあるにせよ、)情報が積み上がることで見えてくる「貞子像」というのが、根拠があるだけに説得力がある。
合理的な調査を牽引した高山の口から「俺たちは呪われたんだ」というセリフが出た時、ぞくりとした。

また、このような理性的な積み重ねで緊張感を構築しているので、クライマックスの、客観的に見ればやや荒唐無稽に見える「例のシーン」も、きちんと最大の恐怖シーンとして機能しているのが最高だ。
貞子を「情報の恐怖」として形作り、それを成仏させるという解を見出した高山をあざ笑うかのように、「存在」として立ち現れる貞子の恐ろしさ!

もう一点、新鮮に感じたのは、この映画は非常にドラマ性が高いという点だ。
呪いのビデオに関する内容を除いて、この映画は説明的なセリフは少ない。
高山と浅川の関係も、セリフで明言されるわけではない。
彼らの微妙な温度感はひりつくセリフや動きによって示される。

特に好ましく感じたのは、「高山には浅川への情はあるが、もう性愛(恋愛)の対象とは見ていない」と表現されている点だ。
この映画、恋愛がかなり丁寧に排除されている(高山がそれを拒絶しているのだが。高野舞との関係は曖昧だが距離は見られる)。
こと後発のJホラーでは、怪異に挑む男女を安易に恋愛関係に発展させがちだが(吊り橋効果といえばそうだが)、本作はそういったものに逃げず、むしろ彼らの別れに至るまでにあった軋轢、浅川の無意識の傲慢さや高山の孤独など、不快なものもしっかりと描き、ムードを作っている。

以前は「松嶋菜々子の悲惨な棒読み演技も、浅川というキャラクターの異様さ、マージナルさを引き立て…」と書いたが、見直すと果たして、たしかに決してうまくはないが浅川の心の機微ははっきりと表現されていた。テレビサイズで見るとヒステリックなシーンの印象が強かったが、役・役者両面からみて、自分の中で浅川の印象が非常に良くなったのも新鮮だった。

超長文になってしまったが、やはり「リング」は邦画ホラー、Jホラーの始まりにして超えられない伝説だと改めて感じた。
(邪願霊、女優霊など先行作があるのは承知の上)

面白かったのが、昨年No.1ホラーだった「ヘレディタリー」が、本作にやや作りが似ていると感じられた点だ。
抑えた展開、音の演出、不快さを描くドラマ、終盤での趣きを変えた超展開。
こういった点が良質なホラーのキーポイントになってくるのかもしれない。
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