ををた

ファーザー 息子の行方を探す旅/父の椅子のををたのレビュー・感想・評価

4.2
「息子のため」を口癖に、当人の願いを無視する主人公の父と、それに辟易する息子。
息子は「友達と旅行に行く」とウソを付きそのまま消息を断ってしまう。 
スリラーではあるが、最後にはじんわりと心が暖かくなる良作。

以下ネタバレ

主人公の父親は、息子が行方不明になって手がかりを元に彼を追っていくが、道中で様々な人に出会う。
その中で妊婦の出産に立ち会うのだが、その後、主人公自身が息子へ抱いていた最初の願望が、ただ生まれてきてくれたことだけだったと気付く。そのシーンが印象深く、主人公が川にぷっかりと浮かびながらなにかに思いふける、まるで胎児(原初)回帰した(=自分の最初の願いに帰った)ような、暗喩的な表現だったのを強く覚えている。
結局、彼が「息子のために」と言っていたことは、彼の父にしてもらえなかったことを息子に投影していただけだった。前半のただ独善的に息子を留学させようとしていた場面と、後半での息子が描いた絵を意気揚々と妻に褒める場面に、出会った人たちによって変わった彼の姿が如実に映し出されていた。

最後のシーンも印象的だった。
関係の悪かった妻とも離婚間近に迫り、家の売り値を釣り上げるために新設しただけの入る予定もなかったプール。
しかし、最後のシーンで家で彼らの帰りを待つ妻によってなみなみと張られた水はまるで彼らを待ちわびるようで、その対比も三人の関係性の変化を表しているようだった。

めっちゃ長くなってしまったのだが、なんというか「これぞ映画」という映画。
心理描写をほんとうに巧みに映像表現に変換していて、しかもその映像も美しい。
あまり長すぎず、見ごたえもあるので是非観てほしいオススメの作品。
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