このレビューはネタバレを含みます
「君は大学院で言語学をやっていたそうだね。それなら、"右"という言葉を説明できるかい?」
営業部でお荷物扱いされていた変人・馬締(まじめ)が、辞書編纂部にスカウトされ、一風変わった面々と一緒に辞書『大渡海』作る話。
原作が大好きな作品なんだけど、映画も想像以上に良かった。素晴らしいクオリティ。
辞書という極めて地味なものを題材にしているのに、言葉に真摯に向き合う人々の情熱がしっかり描かれていて、お仕事モノとしてのアツさがある。そしてそこに恋の要素を入れるのがさすが三浦しをん。今までろくすっぽ恋愛をしてこなかった変人が宮崎あおいに恋をするだけでも面白いのに、「恋」という言葉の語釈まで考えさせられることになるのはこの作品ならでは。二人が同居する早雲荘をロケハンした人は多分天才。
辞書を作る途方もない年月の中で、大事な同僚の異動や大切な人の死など、少しセンチメンタルになるような出来事があるのもリアル。数字しか見ない局長が無茶言ってくるのもめちゃくちゃわかる笑。できれば監修の先生が亡くなる前に間に合ってほしかったけど、そうなるとあのシーンの切ない感情は生まれなかったんだろうな。先生の最後の「感謝以上の言葉を見つけるため、あの世で用例採集します」って手紙はエモすぎた。
自分の使う言葉について見つめ直すきっかけにもなるし、観ると少し仕事を頑張ろうと思える作品。三浦しをん先生へのリスペクトを感じる素晴らしい映像化。小説の方もまた読み直そう。
以下、セリフメモ。
「初めに言葉ありき。とにかく、言葉を好きになることだ」
「だから私たちは、今を生きている人たちに向けて辞書を作らなければならない。大渡海は、今を生きる辞書を目指すのです」
「荒木くんがいなくなるということは、私にとって、半身を失うようなものです」
「恋の語釈は馬締くんに書いてもらいましょう。きっと、生きた語釈ができます。そのためにも、その(香具矢との)恋をぜひ進展させましょう」
「女が板前やるってやっぱ変かな」
「そんなことありません。あ…。僕は…香具矢さんの料理が好きです。一番好きです」
「大渡海…なんか中止になるかもしんないです」
「時代とか関係ないです。俺は…大渡海作りたいです」
「俺、宣伝部に異動させられることになったよ」
「どうしてですか?」
「俺がお前のどっちかが抜けるのが、大渡海を作る条件だったんだよ」
「手紙じゃなくて、言葉で聞きたい!みっちゃんの口から聞きたい、今」
「好きです」
「私も」
「頭でっかちなだけじゃ、生きてる辞書は作れない。僕にそう教えてくれたのは西岡さんです」
「(大渡海の編纂を)13年!?13年間何してたんですか!?」
「これから四校に入ります。些細なミスも許されなくなりますので、より気を引き締めていきましょう」
「皆さん、大渡海は来年の3月に発売が決定いたしました」(一同拍手)
「穴の空いた辞書を世に送り出すわけにはいかないんです。皆さん、今日から泊まり込みで作業をしていただけないでしょうか?」
「実は食道に癌がありました。そんなことより、大渡海は順調ですか?」
「…(先生が生きてる間に)間に合わなかったよ」
「15年か、長かったな」
「僕には短く感じられました」
「(新しい用語をたくさん見つけたので)明日から改訂作業に入らなければいけません」
「香具矢さん、これからもお世話になります」
「みっちゃんってやっぱり面白い」