【第63回ヴェネツィア映画祭　コンペティション部門出品】
『河』ツァイ・ミンリャン監督作品。ヴェネツィア映画祭コンペに出品され、カイエ・デュ・シネマ誌トップ10では第10位に選出された。

ミンリャンのフィルモグラフィーの中ではあまり有名なわけではないが、求めているミンリャンらしさが詰まった作品だった。

常連俳優リー・カンションは二役を演じている。一つはトラブルに巻き込まれた行き倒れの男、もう一つは寝たきりで介護される男。カンションのローテンションな演技がこの作品にもう一つ深みをもたらしている。

同性愛、家族愛、異性愛などの垣根を越え、それぞれに愛してはいるものの報われない人々の悲哀を捉えている。個人的には行き倒れの男と成り行きで世話することになる男の同性愛描写が丁寧で非常に好感を持った。

ミンリャンならではの寡黙な作品で、長回しが多用される。これに関してはミンリャンはどれもそうなので特筆すべき点はないが、本作においてもラストシーンを含め画になる画面作りが素晴らしい。

一方でやや映像に頼りすぎな印象も受ける。カンションが二役というのも途中から気付いたし、「これだけじゃ分からない」と思ったところも多かった。ミンリャンファンにはいいが一般観客に不親切。まぁもっともそんなところは気にしていないだろうけど。

非常に静謐で繊細な作品。地味ではあるが、映像美といい語り口やテーマといいミンリャンの全てが詰まったような作品と言えるだろう。

• #第63回ヴェネツィア国際映画祭

台湾の巨匠 ツァイ・ミンリャン監督作品

夜のクアラルンプールを舞台に、運命に導かれるように出会った3人の男女が惹かれあう様を描く

ジメジメと淀んだ空気感の中、ゆっくりと着実に、そしてほぼ無いと言ってもいいほど極限にまで削ぎ落とされたセリフで繰り広げられる男女の切なくも温かい人間模様

固定カメラでの長回しから見辛いほどの暗闇の多用、そして退屈を超えて苦痛ともいえるほどの間の使い方も、彼の映画なら不思議と癖になってしまうから見事なものである

この独特すぎるリズムで淡々と穏やかながらの鮮烈な映像表現はまさに天才的で、ツァイ・ミンリャンならではのマジックにしてやられたという他ない
そして導かれるように訪れる神秘的なラストには、感動を超えた神々しさすら感じられる

お決まりのリー・カンションもこの上なく役の雰囲気にビシッとはまっている印象で素晴らしかった…👏🏻

〈 Rotten Tomatoes 🍅88% 🍿74% 〉
〈 IMDb 7.0 / Metascore 78 / Letterboxd 3.7 〉

2021 自宅鑑賞 No.410 GEO

[原題"一人で寝たくない"に集約される静謐で無償の愛]　50点

以前シネフィルお兄さんとお話した際、私の天邪鬼映画遍歴が相当ロックな人生であると学んだ。ミンリャンは私が18歳になった記念にR-18映画を借りてくる企画で「エンター・ザ・ボイド」「イースタン・プロミス」と共に鑑賞した「西瓜」が最初だった。ミンリャンの入門に何がいいかなんて知らんが、「西瓜」がミスであることは明白。

高温多湿で多国籍なマレーシア。ある男が行き倒れの男を介抱し、ある女が寝たきりの男を介護する。ワンシーンワンショットの長回しで彼らを口数少なく語る姿勢は「西瓜」でも共通していたから、ミンリャン的手法なんだろう。ただ、単純にテーマに興味を持てないから全体の印象も薄めだけど、たまに出てくるビルの廃墟は最高にカッコいい。

画面が青くて涼しそうなのに登場人物が暑そうなのは、シャーネレク「私の緩やかな人生」を思い出す。彼女もフィックス長回しメイツだったからミンリャンは影響でも受けてんじゃね。